だしソムリエとして国内外の食文化を熟知する河口氏は、あるジレンマを抱えていた。ビーガンの生徒たちに、動物性素材を一切使わない「本物のだし」を届けたい。その出会いが、美濃与の新商品「大豆だしパック」誕生のきっかけになった。
だしソムリエが探し続けた「ビーガンのだし」
2024年7月26日、夏の盛りに、河口氏が美濃与を訪ねてきた。
河口氏は京都でだし教室を主宰するだしソムリエだ。その教室には、日本文化に魅了された外国人の生徒も多く参加する。そして外国人の中には、一定数のビーガンの方がいた。「昆布だけ、椎茸だけのだしでは物足りない。もっと香ばしくて、奥行きのあるビーガンだしができないだろうか」と、河口氏は長い間その答えを探していた。
自ら大豆を焙煎しただしに使うこともあったが、毎回手間がかかり、味も安定しない。「大豆を出汁専用で焙煎した商品があると聞いて、居てもたってもいられなくなりました」と河口氏は言う。
「こんな商品があったんですか!」
美濃与の焙煎大豆を前に、河口氏はだしを引いてみた。香ばしい香りが立ち上り、甘みとうま味が広がる。保存しても劣化しない品質。プロのだしソムリエが長年求めていたものが、そこにあった。
「焙煎を専門にする豆屋だからこそ、この品質が実現できる。これは本物です」。
河口氏がそう言い切ったことで、美濃与の新商品「大豆だしパック」の開発がスタートした。
「北海道産昆布×原木椎茸×焙煎大豆」。三つの素材が揃った
河口氏が提案した組み合わせは、北海道産の真昆布、原木乾燥椎茸、そして焙煎大豆の3つだった。
中でも河口氏が強く推したのが椎茸だった。原木で育てた国産椎茸を、特殊な低温乾燥技術で仕上げたもの。一般的な乾燥椎茸とは一線を画す品質で、お湯を注いでわずか15分で、ふっくらとした椎茸に戻る。独特のクセも出ず、旨味だけがすっきりと溶け出す。
「大豆の甘みと昆布のうま味、そして椎茸の香りと深みが合わさると、植物性だけとは思えないコクが生まれるんです」。
3つの素材が揃ったとき、河口氏がイメージしていたビーガンだしの輪郭が、ようやくはっきりと見えてきた。
提案会で見えた、大豆だしの「本当の価値」
完成した大豆だしパックを携え、河口氏と美濃与は提案会を開催した。当日の体験メニューは充実していた。おすまし、筑前煮、炊き込みご飯、昆布と椎茸の佃煮、大豆の甘露煮、大豆フロランタンと、だしパック2個で4人前の食事が完成する。しかも、すべてビーガン対応だ。
「大豆があるとないとでは、風味の奥行きがまったく違う」という事実を、参加者全員が実際に食べながら確認した。
さらに参加者を驚かせたのが「だしガラの活用」だった。だしを取り終えた大豆は、そのまま料理の素材になる。ふっくらした食感、ほんのりした甘み。捨てるはずのだしガラが料理の主役にもなれると知って、会場のあちこちで感嘆の声が上がった。
日本の食文化を未来へつなぐ
「昔から精進料理では大豆をだしに使っていた。でも現代人はそれを忘れてしまっている。大豆だしパックは、その記憶を呼び覚ます商品だと思う」と河口氏は語る。
気候変動による昆布の収量減少、植物性食文化への世界的なシフト、健康意識の高まり。大豆だしパックが生まれたタイミングは、時代の流れと無縁ではない。
河口氏が美濃与を訪ねてきたあの夏の日から、だしソムリエの視点と美濃与の焙煎技術が重なり合い、新しいだし文化の形が動き始めた。