明治35年(1902年)の創業以来、私たち美濃与は120年以上にわたり、ここ京都の地で和菓子原材料の専門店として歩んでまいりました。「良いお菓子は、良い原材料からしか生まれない」その信念のもと、職人の方々の厳しい目に適う素材をお届けすることこそが、私たちの使命であり誇りです。
しかし、時代と共に日本の農業を取り巻く環境は大きく変化しました。生産者の高齢化、後継者不足、耕作放棄地の増加。かつては当たり前のように手に入った良質な国産大豆が、いつしか「手に入りにくい貴重品」となりつつあります。
「ただ原材料を仕入れて売るだけの問屋であってはいけない。日本の食文化と農業の未来を、自分たちの手で守らなければならない」
その強い危機感と覚悟から生まれたのが、自社で土作りから始める「大豆プロジェクト」であり、その想いを製品へと結実させる心臓部こそが、京都市伏見区に構えた「美濃与 大豆焙煎所」です。ここは単なる製造工場ではありません。私たちが畑で汗を流して育てた大豆、そして志を共にする農家の方々が大切に育てた大豆を、最高の状態で輝かせるための「聖域」なのです。
なぜ、「自社焙煎」にこだわるのか
私たちが大豆焙煎所を立ち上げた最大の理由は、「鮮度」と「対話」にあります。
一般的に流通しているきな粉などの大豆加工品は、焙煎された状態の豆を仕入れて製粉することが少なくありません。しかし、私たちは考えました。「コーヒーが挽きたて・淹れたてを最高とするように、きな粉や大豆製品も、焙煎した瞬間の香りが最も素晴らしいのではないか」と。
美濃与の大豆焙煎所では、生の状態で届いた大豆を、その日の気温や湿度、豆の状態に合わせて自社で焙煎します。豆は生き物です。産地や品種によって、あるいはその年の気候によって、水分量や硬さは微妙に異なります。マニュアル通りの設定では、その豆が持つ本来のポテンシャルを100%引き出すことはできません。
最新の焙煎機を導入していますが、最終的な味の決め手となるのは、熟練したスタッフの「五感」です。 窯の中で踊る豆の音、刻一刻と変化する香ばしい匂い、色づきのグラデーション。それらを片時も逃さず見守り、「今だ」という一瞬を見極めて釜から上げる。機械の性能と人の感性が融合して初めて、美濃与が求める「ふくよかな香り」と「深い甘み」が生まれるのです。
「大豆専用」だからこそ実現できる、安心と安全
食の安全が厳しく問われる現代において、私たちにはもう一つ、譲れないこだわりがあります。それは、この伏見の工場を「大豆専用工場」としたことです。
多くの製粉工場では、小麦や蕎麦など複数の穀物を同じラインで扱うことが一般的ですが、私たちはコンタミネーション(アレルギー物質の意図しない混入)のリスクを限りなくゼロにするため、大豆以外の持ち込みを一切行わない体制を整えました。 これにより、大豆アレルギーをお持ちでないお客様には純粋な大豆の美味しさを、そして食品メーカー様や和菓子店様には、絶対的な安心をお届けできる体制を構築しています。
この徹底した品質管理は、私たち美濃与が100年以上の歴史の中で培ってきた「信用の証」でもあります。
京都・南丹の畑から、世界へ広がる可能性
私たちの挑戦は、工場の中だけで完結するものではありません。 京都府南丹市の自社農園では、社員自らが土に触れ、種をまき、草を取り、収穫の喜びを肌で感じています。自分たちの手で育てた大豆だからこそ、焙煎にかける愛情もひとしおです。
「この大豆は、あの日差しの中で育ったものだ」 「今年の実りは小粒だが、味が凝縮されている」
畑を知っているからこそできる加工があり、伝えられる物語があります。 現在、この焙煎所からは、伝統的な京菓子のための極上のきな粉だけでなく、深煎りのコクを楽しめる「大豆珈琲」や、動物性原料を使わない「大豆だし」など、大豆の概念を覆す新しい製品が次々と生まれています。これらは、和食文化の枠を超え、ヴィーガンや健康志向が高まる世界中の食卓へアプローチできる可能性を秘めています。
未来の「おいしい」を、共に創る
美濃与 大豆焙煎所は、私たちの夢の到達点ではなく、あくまで出発点です。
地域の農家の方々が大切に育てた大豆を受け入れ、付加価値の高い商品として世に送り出すことで、農業の持続可能性に貢献したい。 和菓子職人の方々が「このきな粉なら、新しいお菓子が作れる」とインスピレーションを抱くような、最高品質の素材を提供し続けたい。
一粒の大豆の向こう側に、農家の笑顔があり、職人の情熱があり、そして何より、それを口にするお客様の「おいしい」という幸せな瞬間がある。そのすべてのつながりを大切に紡いでいくことが、京都の地で商いを続けてきた私たちの責任です。
伝統を守るとは、過去を繰り返すことではなく、常に新しい火を灯し続けること。 香ばしい大豆の香りが漂うこの伏見の焙煎所から、私たちは次の100年に向けた、新しい和菓子の文化と日本の農業の未来を、皆様と共に創り上げてまいります。









