「食品アップサイクル」は、これまで廃棄されてきた食品の副産物・規格外品を、別の食品として生まれ変わらせる取り組みです。豆腐製造のおから、ビール製造のモルト粕、コーヒー抽出粕、規格外野菜、果物の皮や芯——いずれも食材として使える栄養価を持ちながら、流通や見た目の都合で捨てられてきました。世界の食品アップサイクル市場は2021年時点で約537億ドル規模、年成長率6%超で拡大が続いています。
本記事では、京菓子原材料を120年扱う美濃与の視点で、食品アップサイクルの定義、市場規模、国内外の事例10選、SDGs対応、企業が取り組む意義、商品開発の実務ポイントまで業務目線で網羅的に整理します。新規事業・サステナビリティ担当・商品開発担当が押さえるべき情報をまとめました。
食品アップサイクルとは|定義と関連用語の整理
食品アップサイクルは、廃棄予定だった食材・副産物に新たな価値を与えて別の食品として活用する取り組みです。リサイクル・リユース・フードロス対策と混同されがちですが、概念は微妙に異なります。
アップサイクルとリサイクルの違い
リサイクル(再資源化)は、廃棄物を原料に戻して再利用すること。アップサイクル(価値創造的再生)は、廃棄物を「より価値の高い別製品」に変える行為で、新たな商品価値を作る点が特徴です。食品アップサイクルでは、たとえば「ビール粕→クッキー」「おから→ベーカリー」「コーヒー粕→キノコ培地」のように、廃棄の出口が新しい商品の入口になります。
食品ロス・フードロスとの関係
食品ロス(フードロス)は本来食べられるのに廃棄される食品のことで、日本では年間約472万トン発生(農林水産省2022年度推計)。食品アップサイクルは、この食品ロスを減らすひとつの手段です。ただしアップサイクルの対象は「人が直接食べない副産物(粕・皮・芯)」も含むため、食品ロス削減より広い概念といえます。
サステナビリティ・SDGsとの位置づけ
食品アップサイクルは、SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」の代表的な実践です。資源の循環利用、廃棄物の削減、新たな経済価値の創造を同時に実現できる点が、企業のサステナビリティ戦略で評価されています。CSRやESG投資との親和性も高く、ここ数年は大手食品企業の事業戦略に組み込まれる事例が増えています。
食品アップサイクル市場の現状と規模
世界市場・国内市場ともに、食品アップサイクルは急成長セクターです。数値で全体像を把握しておきましょう。
世界市場規模と成長率
世界の食品アップサイクル市場は2021年に約537億ドル規模で、2022〜2029年に年成長率6.2%以上で拡大すると予測されています(出典:Data Bridge Market Research)。アメリカが市場をリードし、欧州・アジアが続く構図です。気候変動・人口増・SDGs要請が市場拡大の追い風になっています。
国内市場と注目企業
日本国内では、オイシックス・ラ・大地「Upcycle by Oisix」、キッコーマンの副産物活用、不二製油の植物性食品開発、明治のチョコレート副産物活用などが代表事例です。中小企業・スタートアップでも独自の取り組みが進んでおり、京都の美濃与「和のカカオ」もそのひとつです。
市場拡大の追い風
食品アップサイクル市場が拡大する理由は、①SDGs・ESG投資の評価軸として企業価値に直結、②カカオ・コーヒー・大豆など主要原料の価格高騰でコスト圧力、③消費者の環境意識の高まり、④EU・米国でのサステナビリティ規制強化、の4つです。とくに2024年以降のカカオショックは、製菓業界の代替素材開発を加速させました。詳しくは「カカオ豆が高騰する5つの理由」もご参照ください。
食品アップサイクルが注目される3つの背景
なぜ今、食品アップサイクルがこれほど注目されているのか。3つの背景を整理します。
①食品ロスの構造的課題
食品ロスは家庭系と事業系がほぼ半々の構成で、事業系の中でも食品製造業の副産物(豆腐おから、ビール粕、ジュース搾汁残渣など)は廃棄コストもかかる課題です。これらを「捨てる」から「活かす」への転換が、アップサイクルの中核アイデアです。
②原料価格高騰へのリスクヘッジ
カカオ、コーヒー、小麦、砂糖など、主要原料の価格が世界的に上昇しています。輸入依存の食品メーカーにとって、自社副産物を素材化する取り組みは原料コストのリスクヘッジになります。「廃棄物をゼロから買い直す原料」と「すでに自社にある副産物」では、原価構造が根本的に違います。
③消費者の環境意識とブランド価値
環境意識の高い消費者層(ミレニアル世代・Z世代を中心)は、サステナブルな商品に対する支払い意欲が高い傾向があります。「廃棄物から作られた価値ある食品」というストーリーは、ブランド差別化として強い訴求力を持ちます。SDGs文脈の広告・PRにも活用しやすい点も、企業がアップサイクルに踏み込む理由です。
国内の食品アップサイクル事例10選
国内で展開されている代表的な食品アップサイクル事例を紹介します。発想の幅と実装の方向性を理解するのに役立ちます。
大手企業の取り組みだけでなく、スタートアップ・中小・地域ベンチャーまで幅広く実在事例を紹介します。
①ASTRA FOOD PLAN「ぐるりこ」|過熱蒸煎機で食品廃棄物をパウダー化
埼玉県のスタートアップ・ASTRA FOOD PLANは、独自の「過熱蒸煎機」で野菜の端材・食品工場の副産物などを5〜10秒で乾燥・粉末化する技術を開発。完成パウダー「ぐるりこ®」は、玉ねぎ・しいたけ・ビール粕など多様な原料で展開され、食品メーカー・社内カフェ・調味料に採用されています。2025年ICC KYOTOカタパルトで優勝した注目スタートアップです。
②株式会社グリーンエース「upvege」|未利用野菜のアップサイクルブランド
形・サイズの規格外で市場に出せなかった野菜を、色・香り・栄養を保ったまま高付加価値製品に再生する中小ブランド「upvege」。農林水産省のSBIR(中小企業イノベーション創出推進基金)採択事業として、全国の生産地と連携した地域循環型のアップサイクルモデルを構築。2030年までに「アップサイクル食品を一般食品市場の主要カテゴリー」として確立することを目指しています。
③株式会社kitafuku「CRAFT BEER PAPER」|モルト粕の紙化
横浜のベンチャー・kitafukuは、クラフトビール製造で出るモルト粕(麦芽の搾りかす)を、紙の原料にアップサイクルする「CRAFT BEER PAPER」を2021年に発売。名刺・パッケージ・ノートなどに展開され、ビール醸造所と紙製品メーカーの異業種コラボとして注目される地域ベンチャー事例です。
④株式会社SORENA「りんごレザー」|長野・飯綱町発の合成皮革
長野県のベンチャー・SORENAは、飯綱町と連携して地元のりんご加工で出る搾りかすから「りんごレザー」(合成皮革)を製造。バッグ・財布などのファッションアイテムに展開し、地域農業と都市部の消費者をつなぐ循環モデルを実現。地方発のアップサイクルベンチャーの代表例です。
⑤OYAOYA(株式会社Agriture)|京都産乾燥野菜のアップサイクル
京都の株式会社Agritureが展開する「OYAOYA(オヤオヤ)」は、京都産の規格外野菜・端境期の余剰野菜を低温乾燥でドライベジタブル化するアップサイクルD2Cブランドです。京野菜の伝統と国産という付加価値を活かし、消費者向けの乾燥野菜商品を全国に流通させています。地域農業と食品ロス削減を両立する国内ロールモデルです。
⑥株式会社アイル「VEGHEET(ベジート)」|野菜のシート食品
愛知県のアイル社が開発した「VEGHEET(ベジート)」は、規格外で売れなくなった野菜と寒天を組み合わせ、海苔のようなシート状に乾燥させた新食材。にんじん・トマト・ほうれん草など多様な野菜で展開され、巻物やラップサンドの素材として活用されています。中小食品メーカーが新カテゴリを開拓した代表例です。
⑦オイシックス・ラ・大地「Upcycle by Oisix」
食品宅配大手オイシックス・ラ・大地が2021年から展開する独自ブランド。ブロッコリーの茎・大根の皮・パイナップルの芯などをチップス化、おからを使ったパンケーキミックス、梅酒製造後の梅の実をドライフルーツに加工するなど、20種類以上のアップサイクル商品を展開。BtoCで広く流通している国内の代表事例です。
⑧キッコーマンの副産物循環
醤油大手のキッコーマンは、しょうゆ粕・しょうゆ油・果実の搾汁残渣・おからなどの副産物を、飼料・肥料・新規食品素材へと再活用する循環体制を整えています。副産物の発生量自体を減らす歩留まり改善と、廃棄物の有効活用を両輪で進めている点が特徴です(出典:キッコーマン CSR)。
⑨アサヒユウアス「Coffeeloop」|コーヒー粕の再生
アサヒグループ傘下のアサヒユウアスが展開する「Coffeeloop」プロジェクトは、ホテルグランヴィア京都のコーヒー粕を原料に、再利用可能な「Coffeeloopカップ」を製造。ホテルヴィスキオ京都の宿泊者専用ラウンジで実装され、大手企業がホテル業界と連携した循環型プロダクト事例です。
⑩美濃与「和のカカオ」|大豆焙煎粕からのカカオ代替
京都の美濃与(中小・京菓子原材料120年の老舗)による国内アップサイクル事例。詳細は本記事後半の「美濃与の和のカカオ」セクションで解説します。
海外の食品アップサイクル事例
海外、とくにアメリカ・欧州では、食品アップサイクル専門のスタートアップ・大手企業の取り組みが目立ちます。
米国「Upcycled Food Association」と認証制度
米国では業界団体「Upcycled Food Association(UFA)」が設立され、独自の「Upcycled Certified」認証制度を運用しています。食品の何%がアップサイクル素材か、トレーサビリティを満たしているかなどの基準で認証され、消費者が一目でアップサイクル商品を選べる仕組みです。
米Voyage Foodsのカカオ・コーヒー代替
米Voyage Foodsは、ぶどうの種・ひまわりの種・大麦などを使ってカカオやコーヒーの代替素材を開発するスタートアップです。カーギル社などの大手原料メーカーと提携し、グローバルにB2B供給を進めています。日本市場への本格参入はまだ限定的ですが、業界の注目度は高い企業です。
欧州のビール粕・パン粕活用
ドイツ、オランダ、英国などのビール大国では、ビール粕を使ったパン・スナック・プロテインバーが商品化されています。ベルギーの「Brewer’s Bread」、オランダの「Crumbs」など、ブランド化されたアップサイクル商品が多数登場しています。
食品アップサイクルとSDGs・サステナビリティ
食品アップサイクルは、SDGsの複数の目標に直接貢献します。企業がCSR報告書・統合報告書で打ち出す際の論点を整理します。
関連するSDGs目標
食品アップサイクルが直接貢献するSDGs目標は主に3つです。①目標12「つくる責任 つかう責任」(持続可能な生産消費形態)、②目標2「飢餓をゼロに」(食料の有効活用)、③目標13「気候変動に具体的な対策を」(廃棄物処理時の温室効果ガス削減)。これらは消費者・投資家にもわかりやすい指標です。
CSR・ESG評価への影響
機関投資家のESG評価では、企業の循環経済(サーキュラーエコノミー)への取り組みが重視されます。食品アップサイクル事例は、定量的に削減効果を示しやすく(廃棄物削減量、CO2削減量など)、ESG評価で差をつけやすい領域です。投資家向けIRや統合報告書の素材として活用できます。
海外規制への対応
EUの森林破壊防止規則(EUDR)、英国・米国のサステナビリティ報告義務化など、海外規制が次々と強化されています。日本企業もグローバル展開する場合は、サプライチェーンのサステナビリティ対応が避けられません。食品アップサイクルは、規制対応とブランド価値向上を同時に実現できる戦略的選択肢です。
企業が食品アップサイクルに取り組む意義とメリット
食品メーカー・原料メーカーが食品アップサイクル事業に乗り出す具体的なメリットを整理します。
廃棄コストの削減
食品製造業では、副産物の廃棄処分コストが年間数百万〜数億円規模で発生しています。アップサイクルで副産物を商品化できれば、廃棄コストが収益源に転換します。とくに自社内で副産物を素材化できる企業は、原価構造を根本的に変えられます。
新たな商品ラインの創出
既存商品に頼らない新規事業ラインを作れます。「アップサイクル」「サステナブル」訴求は、既存ブランドとは別軸の付加価値で価格設定もしやすく、付加価値率の高い商品ラインを構築できる可能性があります。
ブランド価値・PR効果
「廃棄物から価値を生む」というストーリーは、メディア取材・SNS拡散・採用ブランディングに使いやすく、CSR・PR文脈での効果が高い領域です。商品単体の売上だけでなく、企業全体のブランド価値向上に寄与します。
食品アップサイクル原料を商品開発で活用するポイント
食品アップサイクル原料を実務で使うときに押さえるべきチェックポイントを整理します。
トレーサビリティと品質管理
アップサイクル原料は副産物が出発点なので、ロットごとの品質バラつきが起きやすいのが現実です。サプライヤー選定では、産地・処理工程・保管状態のトレーサビリティを確保しているかを必ず確認します。第三者認証(Upcycled Certified、有機認証等)の有無も重要な判断軸です。
サンプル試作と原価試算
新素材は完成品でのテクスチャー・色味・風味を確認してから採用判断するのが基本です。配合比率を5〜10%程度から始めて、徐々に最適点を探るのが現実的。原価試算も配合比率ごとに行い、量産時のコスト・販売価格・利益率を試算しましょう。
食品表示と訴求設計
「アップサイクル」「副産物使用」「フードロス削減」などの訴求は、食品表示法や景品表示法に抵触しないよう設計が必要です。具体的な数値(廃棄削減量、CO2削減量)を打ち出す場合は、第三者検証可能なデータが必須です。商品開発の早い段階で食品表示の専門担当と連携しておきます。
美濃与の和のカカオ|大豆コーヒー粕からの素材化
京菓子原材料120年の美濃与は、国産大豆を起点にした食品アップサイクルを進めています。
大豆コーヒーから生まれる焙煎粕
美濃与の大豆焙煎所では、国産大豆を焙煎してきな粉や大豆コーヒーを作ります。大豆コーヒー(焙煎大豆を挽いて抽出する穀物コーヒー)の製造工程では、抽出後の焙煎粕が副産物として残ります。これを「廃材」として捨てるのではなく、新しい食品素材化することにしました。
「和のカカオ」プロジェクトの素材化アプローチ
大豆コーヒーの焙煎粕には、香ばしさと深い色合いがしっかり残っています。120年培った焙煎技術を活かし、二次焙煎・粒度調整・配合設計を施すことで、カカオに近い風味と色味を持つ「和のカカオ」素材に仕立てました。パウダー・フレーク・ペーストの3形態で、ジェラート・焼菓子・ドリンクなどの商品開発に活用されています。
サンプル相談・小ロット対応
「アップサイクル素材を試したい」「自社商品開発に組み込みたい」とお考えの方は、お問い合わせまたは資料ダウンロードからご相談ください。事業内容は事業内容・選ばれる理由、発注の流れは導入の流れ・発注方法にまとめています。
よくある質問
Q1. アップサイクルとリサイクルの違いは?
リサイクルは廃棄物を元の素材に戻して再利用すること、アップサイクルは廃棄物に新たな価値を加えて別の製品に変えることです。食品アップサイクルでは「ビール粕→クッキー」「おから→パンケーキ」のように、廃棄物が新しい商品の主原料になります。
Q2. 食品アップサイクル商品はどこで買えますか?
オイシックス・ラ・大地「Upcycle by Oisix」、ナチュラルローソン、自然食品店、Amazon、楽天市場などで購入できます。「アップサイクル食品」「フードロス削減商品」で検索すると、各メーカーの商品が見つかります。
Q3. 自社副産物のアップサイクル事業はどう始めればいい?
まず副産物の量・品質・処理コストを可視化し、商品化のポテンシャルを評価します。次に、自社製造で完結するか、外部パートナーと共同開発するかを決めます。サンプル試作・原価試算・食品表示確認を経て、小ロットから市場投入する段階的アプローチが安全です。
Q4. 食品アップサイクルは本当に環境に貢献するの?
定量的に貢献します。廃棄物処理時のCO2排出削減、原料の生産・輸送負荷削減、食品ロス削減という多面的な効果があります。一方、新素材を作る加工工程でのエネルギー消費もあるため、ライフサイクルアセスメント(LCA)で総合評価することが望ましいです。
Q5. 美濃与の和のカカオはどんな企業に向いていますか?
カカオ高騰の影響を受けている製菓メーカー、サステナビリティ訴求を強化したい食品メーカー、国産アップサイクル素材を採用したいOEM委託先などに向いています。サンプル試作は小ロットから対応可能で、試作品の風味評価から商品化までのフローもお手伝いできます。
まとめ|食品アップサイクルは「廃棄から価値創造」への転換
食品アップサイクルは、副産物・規格外食材・廃棄予定の食品を新たな価値ある商品に変える取り組みです。世界市場は500億ドル超で年6%超で成長中、日本でも大手・中小問わず多様な事例が登場しています。SDGs・ESG評価・原料リスクヘッジ・ブランド価値向上を同時に実現できる戦略的領域として、企業の取り組みが本格化しています。
新規事業として食品アップサイクルを検討する企業、自社副産物の活用方法を探している食品メーカー、国産アップサイクル素材を商品開発に組み込みたい方は、京菓子原材料120年の美濃与までお気軽にご相談ください。お問い合わせまたは資料ダウンロードからご連絡いただけます。
参考文献・出典
- 食品アップサイクル市場規模:Data Bridge Market Research / シェアシマ「食品アップサイクル原料の紹介」
- アップサイクル食品の定義・市場動向:Social Good「アップサイクル食品とは?」
- キッコーマンの副産物循環:キッコーマン CSR
- 食品ロス統計:農林水産省 / 環境省
- カカオ価格高騰:美濃与ブログ「カカオ豆が高騰する5つの理由」
- カカオ代替素材:美濃与ブログ「カカオ代替原料を徹底比較」