餡の口当たりや作業性を整えるために、酵素や酸を使うことがあります。
ここで購買と品質保証がつまずくのが表示です。同じ原料を入れても、何のために入れたかで表示名が変わります。クエン酸は同じ物質のまま3通りの書かれ方をしますし、酵素にいたっては書かなくてよい場合があります。

クエン酸は3つの区分に登場する
消費者庁の「食品表示基準について」別添 添加物には、一括名で表示できる添加物の区分が定義とともに並んでいます。クエン酸は、そのうち複数の区分の範囲に入っています。
| 何のために入れるか | 区分の定義(原典) | 表示 |
|---|---|---|
| 酸味をつける・強める | 酸味の付与又は増強による味覚の向上又は改善のために使用される添加物 | 酸味料 |
| pHを保つ | 食品を適切なpH領域に保つ目的で使用される添加物 | 水素イオン濃度調整剤またはpH調整剤 |
| 生地を膨らませる | パン,菓子等の製造工程で添加し,ガスを発生して生地を膨張させ多孔性にするとともに食感を向上させる添加物 | 膨張剤/ベーキングパウダー/ふくらし粉 |
| 味を整える(※クエン酸三ナトリウムの場合) | 味の付与又は味質の調整等味覚の向上又は改善のために使用される添加物。ただし,もっぱら甘味の目的で使用される甘味料,酸味の目的で使用される酸味料又は苦味の目的で使用される苦味料を除く | 調味料(有機酸)など |
クエン酸そのものは、酸味料・pH調整剤・膨張剤の3つの範囲に挙げられています。調味料の範囲には入っていません。定義に「酸味の目的で使用される酸味料を除く」というただし書きがあるとおり、酸味を出す物質を味の調整名目で書き替えることはできない作りです。
一方、クエン酸三ナトリウムは酸味料・pH調整剤・調味料の3つの範囲に挙がっています(ほかにプロセスチーズ等の乳化剤の範囲にも載っています)。酸そのものと、そのナトリウム塩とで、書ける区分の顔ぶれが違います。
物質が同じでも、使用目的が違えば表示が違うということです。原材料表示を見て「酸味料」とあれば酸味のため、「pH調整剤」とあればpHのため、と読み分けられます。
調味料だけは種類別を括弧で付ける
一括名のなかで調味料は書き方が違います。原典の一括名の欄は調味料(アミノ酸等)等となっており、括弧で種類別を示す形になっています。
区分はアミノ酸・核酸・有機酸・無機塩の4つで、クエン酸三ナトリウムやコハク酸、乳酸ナトリウムなどは有機酸に入ります。
「調味料」とだけ書いて済ませることはできません。同じ一括名でも、膨張剤なら区分名だけで足ります。重曹とベーキングパウダーの記事では、その膨張剤側の書き方を扱っています。
原料の規格や製造工程をまとめた資料をご用意しています。選定の判断材料としてお使いください。
酵素は「失活していないこと」が条件
ここが最も見落とされます。
同じ資料の酵素の定義はこうです。食品の製造又は加工の工程で、その有する触媒作用を目的として使用された、生活細胞によって生産された酵素類であって、最終食品においても失活せず、効果を有する添加物及びその製剤。
読みどころは「最終食品においても失活せず、効果を有する」という条件です。一括名「酵素」で表示するのは、この条件に当てはまる場合です。
加熱で失活していれば加工助剤になりうる
酵素は熱に弱い性質があります。餡を炊く工程のように加熱を通す設計なら、最終製品に到達する前に失活していることがあります。
失活して効果を持たなくなっていれば、表示が要らない添加物の考え方に近づきます。食品表示基準では、最終的に食品に残っていないもの、残っていても量が少ないために効果が発揮されないもの、栄養強化の目的で使用されるものが表示を要しない添加物とされています。それぞれ加工助剤、キャリーオーバー、栄養強化の目的で使用される食品添加物と呼ばれます。ここは一括名の別添とは別の枠組みなので、判断のときは根拠を取り違えないでください。
「酵素を使ったから表示が要る」でも「加熱したから要らない」でもありません。自社の工程で最終製品に効果が残っているかどうかで決まります。この判断は工程条件とセットなので、規格書だけを見ても答えは出ません。
キャリーオーバーと加工助剤の考え方は白味噌の記事でも扱っています。
先に決めるのは「何のために入れるか」
ここまでを整理すると、順序が見えてきます。
表示は物質名で決まりません。使用目的で決まります。だから発注や配合を決める前に、社内で目的を言語化しておく必要があります。
- 酸味を出したいのか——酸味料になります
- pHを一定に保ちたいのか——pH調整剤になります
- 味に厚みを持たせたいのか——調味料(有機酸)などになります
- 炊き上げの途中で働かせたいだけなのか——酵素なら、最終製品での失活の有無で扱いが分かれます
「なんとなく入れている」状態のまま表示を決めると、後で説明できなくなります。取引先の品質保証から使用目的を聞かれたときに、根拠を持って答えられる形にしておいてください。
目的を後から書き替えることはできない
表示を軽くしたいからという理由で、実際の目的と違う区分を選ぶことはできません。
各区分の定義は「〜のために使用される添加物」という書き方になっています。実際に何のために使ったかが基準です。pH調整の目的で入れたものを酸味料と書く、あるいはその逆をする、という選び方はできません。
美濃与で扱っている関連原料
豆を炊く工程まわりで使われる原料として、次のものを扱っています。
酵素製剤のエムラーゼ、クエン酸、クエン酸ソーダ(クエン酸ナトリウム)、煮豆用のリン酸塩製剤などです。いずれも使用目的によって表示区分が変わる原料なので、採用にあたっては目的と工程をあわせてご相談ください。このうち煮豆用パンフォスは、商品ページの原料区分が食品添加物(酵素)とされています。エムラーゼをどの工程に入れるかは作りたいものによって変わります。用途からご相談ください。
豆の炊き上げに使う加工助剤の例はかのこ豆の記事でも触れています。かのこ豆の規格書には、消泡剤や煮豆軟化剤が加工助剤として記載されています。
確認しておく項目
| 確認すること | なぜ見るか |
|---|---|
| 使用目的の言語化 | 表示は物質名でなく目的で決まる。社内で言葉にできているか |
| 酵素の失活 | 最終食品で効果を持つかどうかで、一括名「酵素」で書くかが変わる |
| 工程の加熱条件 | 失活の判断は工程とセット。規格書だけでは決まらない |
| 調味料の種類別 | 「調味料」だけでは書けない。有機酸などの種類別を括弧で付ける |
| 既存表示との整合 | 同じ原料を目的違いで複数使っている場合、表示をどうまとめるか |
| 取引先への説明 | 品質保証から目的を問われたときに根拠を示せるか |
| 無添加訴求との関係 | 表示が要らない場合でも、訴求文言をどうするかは別の判断になる |
よくある質問
クエン酸を入れたら「酸味料」と書くのですか
目的によります。酸味の付与や増強のために使ったなら酸味料、pHを適切な領域に保つために使ったならpH調整剤(水素イオン濃度調整剤)です。クエン酸は両方の区分の範囲に挙げられているので、物質名だけでは決まりません。
酵素は必ず表示が要りますか
一括名「酵素」の定義は、最終食品においても失活せず効果を有するもの、となっています。加熱で失活して効果を持たなくなっていれば、表示が要らない添加物の考え方に当たる場合があります。自社の工程条件とあわせて判断してください。
括弧の中身は省略できますか
書けません。一括名は「調味料(アミノ酸等)等」という形で、括弧に種類別を示すことになっています。区分はアミノ酸・核酸・有機酸・無機塩の4つで、クエン酸三ナトリウムやコハク酸は有機酸に入ります。
表示を軽くしたいので、目的を書き替えてもいいですか
できません。各区分の定義は「その目的のために使用される添加物」という書き方になっており、実際に何のために使ったかが基準です。表示から逆算して目的を決める、という順序にはなりません。
自社の工程で判断がつきません
加熱の温度と時間、それをどの段階でかけているかを教えてください。酵素が最終製品で働いているかどうかは、そこで決まります。判断に迷う部分は、規格書と工程を突き合わせながらご相談いただけます。
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添加物の表示は、原料を選ぶ話ではなく、何のために使うかを決める話です。目的が言葉になっていれば、表示の区分は原典から引けます。いま何を解こうとしているのかを教えていただければ、原料と表示の両方からご相談いただけます。
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