2024年から続くカカオ価格の歴史的な高騰を受けて、製菓メーカー・チョコレートメーカーの仕入れ・商品開発担当者の関心が「カカオ代替原料」に集まっています。キャロブ、大豆焙煎素材、チコリ、不二製油「アノザM」のようなカカオ豆不使用素材まで、選択肢は増えています。一方で、それぞれの風味・価格・規格・サンプル供給体制が異なるため、選定には実務的な判断軸が必要です。
本記事では、主要なカカオ代替原料5種類を比較し、製菓メーカーが商品開発に活用するための判断軸を整理します。業界の最新動向(不二製油アノザM、美濃与「和のカカオ」など)も併せて紹介します。
なぜいまカカオ代替原料が注目されているのか
カカオ代替原料への注目は、2024年以降のカカオショック(歴史的な価格高騰)と、サステナビリティ・国産化への業界要請が同時に進行した結果です。背景を3つの角度から整理します。
カカオ価格の歴史的な高騰
カカオ豆の国際先物価格は2024年に過去最高値を更新しました。原料コストの上昇は、製品価格や原価率を直撃しました。「カカオに頼りすぎない選択肢」を持つことが業界全体の課題になりました。詳しくは「カカオ豆が高騰する5つの理由」をご覧ください。
産地集中リスクとサステナビリティ要請
世界のカカオ生産量の約7割が西アフリカ4カ国に集中しており、気候変動・児童労働・森林伐採といった構造課題が深刻化しています。こうした産地問題を抱えた原料に依存し続けることは、ブランドリスクとしても無視できません。代替原料の併用は、サプライチェーンの脆弱性を分散する手段としても有効です。
国産化と新素材開発の動き
食品アップサイクル市場が世界的に拡大し、副産物を新素材に変える取り組みが商品差別化の軸になりつつあります。日本国内でも、不二製油の「アノザM」(カカオ豆不使用素材)や美濃与の「和のカカオ」(大豆珈琲をつくる際に出る副産物を原料化したカカオ代替素材)など、独自路線が次々登場しています。
主要なカカオ代替原料5種を一覧で比較
製菓メーカーが検討すべき主要なカカオ代替原料を、原料・風味・主な用途で一覧比較します。
大きく「植物由来の単一素材」と「複数素材を配合した代替素材」に分かれます。なお「カロブ」はキャロブの英語名表記(Carob)で同じ素材を指すため、本記事では1つにまとめています。
| 素材 | 原料 | 風味の特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| キャロブ(カロブ) | イナゴマメ(地中海産) | 自然な甘み・カフェインフリー | 焼菓子・飲料・ヴィーガン菓子 |
| 大豆焙煎素材 | 国産大豆の副産物(アップサイクル) | 香ばしさ・深い色合い | 焼菓子・ジェラート・ドリンク |
| チコリ | チコリの根 | 苦味・コク | 飲料・コーヒー風味食品 |
| ひまわりの種・米由来 | 焙煎したひまわりの種・玄米 | ナッツ寄りの香ばしさ | クラフト系焼菓子 |
| カカオ豆不使用素材(アノザM等) | エンドウ豆・キャロブ・チョコ用油脂などを配合 | ミルクチョコレート風味の再現 | 焼菓子・洋菓子・ドリンク |
代替素材の価格はサプライヤー・ロット・為替で大きく異なるため、実際の単価は見積もりで比較してください。
キャロブ|古くからのカカオ代替素材
キャロブ(イナゴマメ)は、地中海沿岸地域で古くから栽培されてきたマメ科の植物です。完熟した果実(さや)を乾燥・粉砕してパウダー化したものが「キャロブパウダー」として市場に出回ります。カカオ代替の代名詞として、ヴィーガン・健康志向の食品開発で長年使われてきました。
キャロブの特徴と風味
キャロブの最大の特徴は、自然由来の甘み(果肉に糖類を多く含む)とカフェインフリーである点です。チョコレート風味に近い茶色の色味と、ナッツのような香ばしさを持ち、砂糖を加えなくても甘さを出せます。カカオと違い、テオブロミンもほとんど含みません。
業務用での使い方と注意点
キャロブパウダーは、ココアパウダーと同じように焼菓子・ドリンクの風味原料として使えます。ただしココアバターのような油脂を含まないため、チョコレートのような口どけや滑らかさは出ません。代替時は植物油脂を併用するレシピ設計が必要です。輸入原料のため、為替・産地リスクの影響を受ける点にも注意が必要です。
大豆焙煎素材|国産アップサイクルの新潮流
京都の美濃与は、大豆珈琲をつくる際に出る副産物(豆粕・微粉)を原料化した「和のカカオ」を提供しています。輸入素材中心だったカカオ代替市場に、国産アップサイクルという新しい選択肢が登場しています。
大豆焙煎素材の風味と用途
国産大豆を焙煎すると、メイラード反応によって香ばしさと深い色合いが引き出されます。きな粉・大豆珈琲・大豆だしと同じ大豆原料を起点に、製品ラインを展開できる点が特徴です。
アップサイクル素材としての価値
「副産物を素材化する」発想は、コスト・国産化・サステナビリティを同時に支える選択肢のひとつになります。大豆焙煎所では、焙煎・粉砕までを自社内で扱っています。
チコリ・カロブ・その他植物性素材
キャロブ・大豆焙煎素材以外にも、植物由来のカカオ代替原料は複数あります。用途や風味プロファイルに応じて使い分けます。
チコリ|苦味とコクを補う根菜由来素材
チコリは欧州で古くからコーヒー代用素材として使われてきた根菜類です。焙煎して粉砕したチコリパウダーは、コーヒー・カカオの両方に近い苦味とコクを持ち、低価格で安定供給できる点が利点です。チョコレートの代替よりも、コーヒー風味食品やココアブレンドの一部に組み込まれるケースが多い素材です。
カロブ(キャロブ英語名)と関連素材
「カロブ」はキャロブの英語名(Carob)の表記揺れで、海外輸入素材で使われることが多い名称です。本質はキャロブと同じ素材で、業務用ロット・産地・粒度の違いがあるだけです。海外産キャロブを「カロブ」と表記するメーカーもあるため、調達時はサプライヤーごとの仕様書確認が安全です。
その他の植物性素材(ひまわり・ごぼう等)
ニッチな選択肢として、ひまわりの種、ごぼう、雑穀(ヒエ・粟など)、フルーツパウダー(ナツメ・デーツ)の焙煎・加工素材も研究されています。風味プロファイルが大きく異なるため、商品コンセプトに合致する場合のみ採用される領域ですが、「カカオに頼らない素材選び」の発想を広げる素材群として知っておく価値はあります。
業界動向|不二製油「アノザM」とゼロカカオ路線
国内の大手素材メーカーと海外スタートアップの動きを紹介します。
不二製油「アノザM」|業務用ミルクチョコレート代替素材
植物性食品素材の老舗・不二製油は、2025年3月に「アノザM」を発売しました。エンドウ豆、キャロブ、チョコレート用油脂などを組み合わせ、カカオ豆由来の原料を一切使わずミルクチョコレートに引けを取らない口どけと風味を実現した業務用素材です。焼菓子や洋菓子向けに展開され、大手メーカーがゼロカカオ路線に踏み込んだ象徴的な動きとして注目されています(出典:不二製油 2025年3月12日プレスリリース)。
海外スタートアップの動き
米Voyage Foods、英WNWN Food(現Win-Win)など、カカオ豆を使わないチョコレート風味素材を開発するスタートアップが世界各国で登場しています。エンドウ豆、ひまわりの種、発酵技術、細胞培養など、アプローチは多様。日本市場への本格参入はまだ限定的ですが、業界トレンドの方向性を示す動きです。
製菓メーカーが代替原料を選ぶときの判断軸
カカオ代替原料の選定は、単純な「カカオ→キャロブ置換」ではなく、商品コンセプト・価格帯・配合比率・サプライ体制を統合的に考える必要があります。実務で押さえるべき判断軸を整理します。
商品コンセプトとの整合性
「ヴィーガン」「カフェインフリー」「国産」「アップサイクル」など、商品コンセプトの軸に応じて適切な素材は変わります。たとえばカフェインフリーを訴求するならキャロブ、国産・サステナブル訴求なら大豆焙煎素材、ミルクチョコレート風味の再現ならアノザMといった対応関係になります。コンセプト→素材の順で選ぶと、配合や訴求がぶれません。
風味・物性の検証
代替素材は「カカオに似た風味」を持っていても、油脂含有量・粒度・口どけが異なります。完成品でのテクスチャー・色味・風味を確認するため、サンプルロットでの試作評価が欠かせません。配合比率は低めから試作し、風味と物性を確かめながら調整していくのが現実的です。
価格・ロット・供給安定性
業務用ロットでの単価、最小ロット数、在庫リードタイム、サプライヤーの安定供給能力——これらは商品設計に直結します。輸入素材は為替・関税・物流の変動を受けやすく、国産素材は供給量に限界がある一方で物流・為替リスクは小さいというトレードオフがあります。複数サプライヤーで分散調達を組むのが安全策です。
表示ルールと法令対応
「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」と「チョコレート利用食品の表示に関する公正競争規約」では、カカオ分・カカオ脂・乳固形分などの含有率によって「チョコレート」「準チョコレート」「チョコレート利用食品」などの表記が定められています。カカオ由来原料を使わない商品はいずれの区分にも当たらないため、「チョコレート」「準チョコレート」を名乗れません。カカオを一部だけ置き換える場合も、カカオ分の含有率で区分が変わる点に注意してください。アレルゲン表示・添加物表示も含め、商品開発の早い段階で食品表示の専門担当と連携しておくとトラブルを避けられます。
美濃与の「和のカカオ」と国産化への取り組み
美濃与は、大豆を起点にした素材ラインで国産アップサイクルを推進しています。「和のカカオ」プロジェクトの概要をご紹介します。
副産物を菓子原料にするまで
美濃与は明治35年(1902年)創業の京菓子原材料商社です。自社で大豆を焙煎し始めたのは令和元年(2019年)で、大豆焙煎所では品種・湿度・気温に応じて火加減を調整し、香ばしさと旨みを引き出しています。「和のカカオ」は、この焙煎所で出る副産物から作っています。
パウダーで幅広い用途に使える
「和のカカオ」はパウダーで提供しています。焼菓子・ジェラート・ドリンクなどの商品開発で、配合量を変えながら色味と風味を調整できます。原料となる大豆は北海道産を主軸に、国産大豆のみを使用しています。
サンプルのご請求
商品開発を検討される際は、和のカカオのサンプルをご請求いただけます。「カカオ代替を試してみたい」「配合の一部に国産アップサイクル素材を組み込みたい」とお考えの方は、お問い合わせまたは資料ダウンロードからご相談ください。事業全体の取り組みは事業内容・選ばれる理由、発注の流れは導入の流れ・発注方法にまとめています。
よくある質問
Q1. カカオ代替原料はカカオより安くなりますか?
代替素材の価格は産地・サプライヤー・ロット・為替によって大きく異なり、カカオより安いとは限りません。大豆焙煎素材は国産のため為替の影響を受けにくいといった違いはありますが、実際の単価は見積もりと供給仕様で比較してください。
Q2. カカオ代替素材で「チョコレート」と表示できますか?
チョコレート類の名称は公正競争規約でカカオ分などの含有率により定められており、カカオ由来原料を含まない商品は「チョコレート」「準チョコレート」「チョコレート利用食品」のいずれも名乗れません。風味を示す表記にする場合も、誤認を招かないよう表示の担当者と確認してください。商品開発の早い段階で食品表示の担当者と連携し、表示と素材選定を整合させるのが安全です。
Q3. キャロブと大豆焙煎素材のどちらを選ぶべき?
商品コンセプトで決めます。「自然な甘み・カフェインフリー」を訴求するならキャロブ、「国産・アップサイクル・サステナビリティ」を訴求するなら大豆焙煎素材が相性良好です。両者は風味プロファイルも違うため、サンプル比較が確実です。配合の一部にキャロブと大豆素材を組み合わせるハイブリッド設計も実用的です。
Q4. 代替素材を100%使った商品は売れますか?
「ヴィーガン」「カフェインフリー」「国産アップサイクル」といった明確な訴求軸があれば、特定セグメントで支持を得られます。一方で、従来のチョコレート好きの消費者をすべて置き換えるのは難しいため、代替素材100%商品は新カテゴリー・付加価値商品として展開するのが現実的です。既存ラインでは、配合の一部を置き換えて試作し、風味・コストと表示区分への影響を確かめる進め方が現実的です。
Q5. 美濃与の「和のカカオ」はどんな形で提供されますか?
パウダーでの提供です。サンプルのご請求を承っています。詳しくは和のカカオの製品ページか、お問い合わせフォームからご相談ください。
まとめ|代替原料は商品コンセプトから逆算で選ぶ
カカオ代替原料は、キャロブ・大豆焙煎素材・チコリ・カカオ豆不使用素材(アノザM等)など、選択肢が広がっています。それぞれの風味・コスト・規格・サプライ体制を理解したうえで、商品コンセプトから逆算して選ぶのが実務の基本です。
美濃与では、国産アップサイクル素材「和のカカオ」のサンプルのご請求を承っています。お問い合わせまたは資料ダウンロードからお気軽にどうぞ。
参考文献・出典
- 不二製油「アノザM」プレスリリース:不二製油 2025年3月12日
- カカオ代替原料の業界動向:PR TIMES 不二製油プレス/Foovo フードテックニュース
- 食品アップサイクル市場:シェアシマ









