原料ガイド

桜葉はなぜ大島桜なのか?花の塩漬けとは産地も品種も違う

2026年8月27日

桜葉の剪定・摘み取り・漬け込み・漬け上がりの時期と、菓子屋側の発注タイミングを並べた図
目次

桜餅の仕込みで使う葉は、現場ではひとまとめに「桜の葉」と呼ばれます。ところが発注書を開くと、桜青葉、桜茶葉、桜の花塩漬と、別々の品目が並んでいます。どれも桜には違いないのですが、葉と花では品種も産地も、摘み取る時期も別物です。

ここを取り違えると、届いた材料が思っていたものと違う、という事故が起きます。原料としての桜を、産地の資料をもとに整理します。

比較項目 桜の葉(桜葉漬け) 桜の花(花漬け)
品種 オオシマザクラ 主に関山(かんざん)という晩生種の八重桜
主な産地 静岡県賀茂郡松崎町(西伊豆) 神奈川県小田原市・秦野市とその周辺
全国での位置 松崎町が全国シェア約7割(平成13年時点) 食用八重桜の国内生産量日本一。全国シェア8〜9割
摘み取り 5月上旬〜8月下旬に手で1枚ずつ 花が開ききる前。収穫は4月中旬頃から
漬け方 塩をまきながら重ね、5〜6か月漬け込む 塩と交互に重ね、白梅酢を注ぐ
主な用途 桜餅を包む。長命寺・道明寺の両方 桜湯、吸い物、菓子、あんぱんなど

同じ「桜」でも、育てている場所が静岡と神奈川に分かれています。商社を通せば同じ注文書に並べられますが、在庫は別々に動きます。葉が切れたときに花で代用する、という置き換えもできません。


桜餅の葉に使われるのはオオシマザクラ

産地が栽培しているのは、オオシマザクラという品種です。

松崎町は、伊豆半島に自生すること、葉が花より先に出ること、葉形が良いことなど、この桜の性質をいくつも挙げています。なかでも原料として効いてくるのは2つです。桜葉特有の芳香成分であるクマリンの含有量が他の桜より多いこと。そして、葉の裏面にうぶ毛が全くないことです。

うぶ毛がないという特徴は、口に入れる原料では意味を持ちます。桜餅は葉ごと食べる前提で作られてきた菓子で、裏に毛が残る葉では舌ざわりに影響します。同じ葉物でも、柏の葉が葉ごと食べる前提になっていないのとは事情が違います。

葉の大きさは毎年同じではない

葉物は工業製品ではないので、大きさはその年の育ち方で振れます。包む菓子の寸法に対して足りるかどうかは、産地の資料からは読めません。菓子の設計を先に固めている場合ほど、ロットごとに現物の寸法を見ておく必要があります。


産地が伊豆・松崎町に集中している理由

桜葉漬けの産地は全国に散らばっていません。松崎町の資料によれば、平成13年時点で200戸ほどの農家がオオシマザクラを栽培し、松崎町は全国シェアの約7割の生産量を占めています。

ここに至る経緯も書かれています。伊豆半島では明治末期、南伊豆の子浦地区で桜葉漬けが始まり、昭和34〜35年頃より自生のオオシマザクラを使った薪炭生産が盛んな松崎に中心が移りました。その後、戦後の燃料革命で炭が石油に変わると自生の桜葉の収穫が困難となり、昭和37〜38年頃から松崎町でオオシマザクラの畑地栽培が始まった、という流れです。

つまり今の産地は、自生の桜を採っていた時代から、栽培へ切り替えた結果として残ったものです。平成13年には環境省のかおり風景100選に「松崎町の桜葉の塩漬け」が選ばれています。

静岡県の紹介記事でも、お餅を包む桜葉の約7割が西伊豆の松崎町でつくられている、としています。同記事は、全国に流通する桜葉の大部分がこの町でつくられている、とも書いています。ただし松崎町の数字は平成13年時点のものです。現在も同じ水準かどうかは、公表資料からは確認できません。

調達の観点で言えば、供給元が一つの産地に寄っているということです。その年の作柄が全国の供給に影響しやすい構造になります。桜餅は動く時期が2月から4月に集中する季節商品ですが、この時期に入ってから数量を積み増しても、前の年に摘まれて漬け込まれた量が上限になります。年明けからの手当ては効きにくいと考えておくほうが安全です。

桜葉の剪定・摘み取り・漬け込み・漬け上がりの時期と、菓子屋側の発注タイミングを並べた図
桜葉が菓子屋に届くまでの1年(松崎町「桜葉の栽培」、静岡県「しずおか食の情報センター」より作成)

「松崎町産」と「桜葉」は同じ意味ではない

ここは調達で取り違えやすいところです。約7割という数字は、松崎町の資料では全国シェアの約7割の生産量、静岡県の記事ではお餅を包む桜葉の約7割と、何に掛かる数字かが違います。いずれにしても桜葉には輸入品も流通していて、規格が同じ50枚×100束でも産地が違うことがあります。

産地を商品の要件にするなら、規格書で確認してください。国産と書きたい場合、原産地を示す資料が出せるかどうかまで含めて仕入れ先に聞いておくと、あとで表示を直さずに済みます。逆に産地を問わないなら、選択肢は7割の外にも広がります。


香りは木の上ではなく樽の中で生まれる

桜葉の香りは、生えている葉をちぎった時点では出てきません。静岡県の記事は、枝で揺れている生の葉の状態ではこの香りはほとんどしない、と明記しています。塩漬けの工程を経て細胞膜が壊れ、じっくりと熟成されることで初めて生まれる芳香だ、という説明です。

漬け込みは、樽に葉を同心円状に並べ、その上から均等に塩をまく作業を繰り返します。この状態で5〜6か月かけてゆっくり漬け込むと、桜葉漬けができあがります。

松崎町の資料は、以前に行われていた大樽の漬込みの様子も記しています。三十石樽という高さ2メートル、間口2メートルの樽の中に2、3人が入り、底から葉を外側に向けて1束ずつ同心円状に並べて塩を撒く。これを繰り返して、1樽で約4万束、枚数にして200万枚が漬け込まれたといいます。樽がいっぱいになると1トンの重石をのせます。

この数字は、調達の側から見ると意味が変わってきます。桜餅1個に葉1枚とすると、樽ひとつが200万個分です。一度仕込んだら5〜6か月動かせない量がこの単位で存在している、ということでもあります。年明けから数量を足そうとしても効きにくいのは、この仕込みの単位と期間によります。

50枚1束は産地の作業から来ている

採取された葉は大きさを選別し、50枚を1束としてカヤの紐でくくり結びます。松崎町ではこの作業を「まるけ」と呼び、桜葉作業以外には使われることのない独特の言葉になっている、と資料は書いています。

ここで押さえておきたいのが、産地の側で大きさの選別が入っているという点です。葉のサイズがまったくの成り行きというわけではありません。包む菓子の寸法に対してどのサイズが要るのか、指定できるのかは、仕入れ先に確認する価値があります。

つまり桜葉は、収穫した時点では半製品です。香りが漬け込みの経過とともに生まれる以上、同じ産地の同じ品種でも、いつ漬かったものかで印象が変わりえます。試作と本番で仕上がりを揃えたいなら、ロットが切り替わるタイミングを仕入れ先に聞いておくと読みが立ちます。

1年の作業がいつ動くか

時期 産地の作業 菓子屋側の動き
1月下旬〜2月上旬 前年に伸びた枝を、根本から20cmほど残して剪定する 桜餅の最盛期。前年に摘み取られた葉を使う時期
5月上旬〜8月下旬 剪定後に伸びた枝の葉を、手で1枚ずつ摘み取る 翌シーズンの数量を見積もる時期
摘み取り後〜約5〜6か月 塩をまきながら重ね、漬け込む
秋〜翌年初春 漬け上がったものから順に出回る 年内に押さえておきたい時期

摘み取りの時期は、松崎町の資料が5月上旬から8月下旬、静岡県の記事は4月から9月と、やや幅を持たせています。漬け込みに5〜6か月かかるので、5月に摘んだ分は秋に、8月下旬に摘んだ分は翌年の初春に漬け上がる計算になります。ひとつのシーズンの中でも、出てくる時期は摘まれた順です。いずれにしても、桜餅のシーズンに使う葉は前の年に摘まれたものです。


葉と花は別の桜、別の産地

桜の花の塩漬けは、葉とはまったく別の系統で供給されています。農林水産省の資料によれば、使われるのは主に関山と呼ばれる晩生種の八重桜です。同資料は、小田原市や秦野市とその周辺が食用八重桜の国内生産量日本一を誇り、全国シェアの8〜9割を占める、としています。主な伝承地域も小田原市、秦野市とその周辺です。

漬け方も違います。漬け込み容器に塩と交互に入れて白梅酢を注ぐ方法で、農林水産省の資料は、塩だけで漬けるより白梅酢を使ったほうが風味も彩りもよく仕上がる、としています。葉が塩だけで漬かるのに対し、花には別の材料が入るということです。

摘み取りは、花が開ききる前に行います。収穫は4月中旬頃から始まります。同資料によれば、重石をして3週間から1カ月程度、天地を返したりしながら漬け込み、水分が出てきたら絞ってざるに広げて陰干しし、乾燥したら塩をまぶして完成となります。葉が5〜6か月かかるのに対し、花はずっと短い工程です。

興味深いのは、香りの生まれ方が葉と同じ道筋をたどる点です。同資料は、桜の香り成分であるクマリンはもともと花にはあまり含まれないが、塩漬けにすることで生成される、としています。葉も花も、摘んだ時点では香らず、漬けてはじめて桜の香りになるということです。用途は桜湯や吸い物のほか、菓子、あんぱんなどに広がっています。

菓子の設計では、葉が包む役目を、花が天面の彩りを担うことが多くなります。桜の花塩漬は1kg×10の規格です。1輪ずつ乗せる使い方なら必要数は花の大きさで変わるので、試作の段階で1kgあたり何個取れるかを実測しておくと見積もりが立ちます。

原料の規格や製造工程をまとめた資料をご用意しています。選定の判断材料としてお使いください。

📄 資料をダウンロード(無料)


青葉と茶葉、どちらを使うか

ここは順番を押さえておくと分かりやすくなります。松崎町の資料は、摘み取ったばかりの状態を「若葉は唯の緑色です」と書き、約5か月から6か月間塩漬けされると「べっこう色に漬けあがり」と続けています。静岡県の記事も、熟成された桜葉は美しいべっこう色になる、としています。

つまり、標準的な工程をたどった桜葉漬けは褐色に仕上がります。褐色に仕上がった葉が一般に「茶葉」と呼ばれます。美濃与の桜茶葉桜青葉がそれぞれどの状態にあたるかは、商品ページに色の記載がないため規格書でご確認ください。緑色を残した葉は、緑をどう保っているかについては産地や行政の公開資料に記述がありません。規格はどちらも50枚×100束です。

選び分けは、仕上がりの見え方から逆算するのが素直です。褐色の葉は、長く漬けた桜餅らしい見た目に寄ります。緑が残る葉は、ショーケースの中で春らしさが立ちます。生地が白い長命寺なら葉の色がそのままコントラストになりますし、道明寺で餡の色が透ける作りなら、葉との重なりも見ておきたいところです。

色の違いは柏の葉にもあり、そちらは加熱処理の有無が関わってきます。詳しくは柏餅の葉っぱは食べる?食べない?で整理しています。桜青葉を使う場合は、色の保ち方、賞味期限、保存条件を仕入れ先に確認してから商品の要件に組み込んでください。

束単位の数え方に注意する

葉物は重量ではなく枚数で流通します。50枚という束の単位は、先に触れた産地の「まるけ」に由来します。美濃与の桜青葉・桜茶葉は、この束を100まとめた50枚×100束、合計5,000枚です。

枚数で持っておくと発注が読みやすくなります。桜餅は1個に葉1枚なので、1ケース5,000枚は単純計算で5,000個分です。ただし破れや穴のあるものが混じるので、必要数ちょうどを頼むと足りません。どこまでを不良として弾くかを決めたうえで、その分を上乗せして数えてください。松崎町の資料も、桜葉は少しでも傷がつくと価値がなくなることから取り扱いには十分な注意が必要だ、と書いています。

ほかの葉物は組み方が変わります。特選柏青葉は500枚×8パック、乾燥柏葉は100枚×40束です。束の数と枚数のどちらで話しているかを取り違えると、発注量が桁で狂います。束単位の考え方は和菓子原料の束単位とは?にまとめています。


使う前の塩抜きと、残った葉の保管

塩漬けの葉は、そのままでは塩気が強すぎます。使う分だけ水に浸けて塩を抜いてから使いますが、抜きすぎると香りの印象まで弱くなります。どこまで抜くかで仕上がりが変わる、という前提で条件を決めることになります。

浸ける時間は、仕込む菓子の甘さに合わせて決めることになります。同じ商品を続けて作るなら、時間を記録して固定しておくと仕上がりがぶれません。試作のたびに感覚で決めていると、担当者が替わったときに再現できなくなります。

開封後の保存条件は商品によって違うので、規格書と仕入れ先の指示が優先です。そのうえで押さえておきたいのは、塩蔵が水分活性を下げて保つ方法だという点です。塩を洗い流せば、その働きは失われます。考え方は保存料と日持ち向上剤の違いで整理しています。

発注前に確認しておく項目

確認すること なぜ見るか
品種と産地 桜葉はオオシマザクラか。葉と花は産地が別なので、在庫も別に動く
青葉か茶葉か 仕上がりの見え方が変わる。商品写真を撮り直すことになる場合がある
収穫年とロット 桜葉は前年に摘まれたもの。ロットが替われば漬かり方も替わる
賞味期限と保存条件 未開封と開封後で条件が違う。常温か冷蔵か冷凍かで倉庫と物流の条件が変わる
原産地の証明 国産を要件にするなら、産地を示す資料が出るかを先に確認する
規格書と原材料表示 原材料名の書き方、添加物の有無。取引開始の前提になる
残留農薬と微生物規格 中〜大手では取引の条件になる。分析表が出るかを確認する
検品の基準 破れ、穴、変色、軸の残り方をどこまで許容するか。歩留まりが変わる
束の組み方と梱包 50枚×100束か。品目ごとに単位が違うので、枚数に直して数える。1回の納品単位も確認する
葉のサイズ 包む菓子の寸法に足りるか。その年の育ち方で振れる
押さえる時期 漬け上がりは秋から翌初春。2〜4月に入ってからの積み増しは効きにくい

よくある質問

桜葉は食べても問題ありませんか

桜葉漬けは食用として流通している原料です。オオシマザクラが使われている背景のひとつが、葉の裏面にうぶ毛が全くないことなので、口に残りにくい葉ではあります。とはいえ食べ方に決まりはなく、外して食べる人もいます。売り場でどちらを案内するかは、店として決めておくと接客がぶれません。個別の商品について食用可否を確認する場合は、規格書の記載に沿ってください。

青葉と茶葉で香りは違いますか

産地の資料が示しているのは、5〜6か月漬けるとべっこう色になる、という標準的な流れです。緑を残した青葉がその標準とどう違うのかまでは公開されていません。香りを商品の要件にするなら、両方を取り寄せて同じ条件で比べてから決めるのが確実です。

葉が足りない年はどうすればよいですか

桜の花の塩漬けは品種も産地も別なので、葉の代わりにはなりません。サイズの小さい葉で包める菓子に設計を寄せるか、葉を使わない春の菓子に振り替えるか、という判断になります。いずれにしても、シーズンが始まってからでは打ち手が限られます。

塩抜きした葉は作り置きできますか

塩を抜いた葉は塩蔵の状態から外れます。どこまで置けるかは商品の規格書に従ってください。運用としては、その日に使う分だけ抜くほうが安全です。

サンプルで香りを確認できますか

試作向けのご相談を承っています。青葉と茶葉を並べて比べたい、といったご要望もお伝えください。


あわせて読みたい

参考:松崎町「桜葉の栽培」静岡県「しずおか食の情報センター」農林水産省「にっぽん伝統食図鑑・桜の花漬け」


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桜葉のような季節資材は、押さえる時期を外すと年内には動かせません。前の年に摘み取られた葉を使う以上、判断のタイミングそのものが仕入れの条件になります。年間の使用量から逆算したご相談も承っています。

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