「片栗粉が切れたので代わりを送ってほしい」という連絡をいただくことがあります。ここで気をつけたいのは、でん粉は原料が変われば別の素材になる、という点です。名前が同じ「でん粉」でも、粒の大きさから粘りの出方まで違います。
とろみをつけるだけの用途なら融通が利きます。ただ、透明感を売りにした菓子や、加熱時間の長い工程が入る商品では、置き換えた瞬間に仕上がりが変わります。原料ごとの性質を農林水産省の資料で押さえたうえで、和菓子でどう選ぶかを整理します。
| でん粉の種類 | 粒径(平均) | 特性(農林水産省資料の記載) | 美濃与の取扱 |
|---|---|---|---|
| 馬鈴しょでん粉 | 15〜100μ(40μ) | 他のでん粉に比べ糊化温度が低く、最高粘度が高い。保水性が大きい。白度が高い | 馬鈴薯澱粉〈片栗粉〉25kg |
| 甘しょでん粉 | 15〜35μ(25μ) | 糊液は馬でんに似て透明。地上でん粉に比べ粘度が高く、長時間の加熱にも安定している。蛋白、脂肪などの不純物が少ない。糊化温度、粘度、白度の点で馬でんに劣る | 甘薯澱粉 25kg |
| コーンスターチ | 6〜25μ(14μ) | (記載なし/資料は酸化処理した化工でん粉についてのみ言及) | コーンスターチ 25kg |
| 小麦でん粉 | 10〜35μ(21μ) | 加熱温度、時間に対して比較的均一な粘度を保持する | 小麦澱粉〈浮粉〉25kg |
| タピオカでん粉 | 5〜35μ(20μ) | アミロース含有量が他のでん粉に比べ低く、粘着性、接着性に優れている | — |
| サゴでん粉 | 10〜60μ(40μ) | アミロース含有量が高く、糊化した場合、老化が早い欠点がある | — |
粒径と特性は農林水産省「でん粉の種類、特性、用途等」の記載です。μはマイクロメートルです。葛と蕨はこの表に入っていません。和菓子では主役級の原料ですが、国の統計では別の扱いになります。
まず粒の大きさが違う
表の2列目を見比べてください。馬鈴しょでん粉は平均40μ、コーンスターチは平均14μ。3倍近い開きがあります。
粒の大きさは、でん粉が水を吸って膨らむときの挙動に関わります。ただし粒径だけで粘りが決まるわけではありません。同じ表を見ると、サゴでん粉は馬鈴しょと同じ平均40μですが、アミロースが多く老化が早いという別の性質を持っています。タピオカの20μと小麦の21μもほぼ同じですが、記載されている特性は違います。
粒径は目安のひとつで、実際の挙動は糊化温度と粘度の出方、アミロースの割合が組み合わさって決まります。同じ配合で置き換えて「思ったほどとろみがつかない」「逆に固まりすぎた」となるのは、この組み合わせごと変わってしまうためです。
なお馬鈴しょでん粉の15〜100μという幅は、品質のばらつきという意味ではありません。この原料がもともと持っている粒度の分布です。
馬鈴薯澱粉は立ち上がりが早く、粘りが強い
農林水産省の資料は、馬鈴しょでん粉の特性を、他のでん粉に比べ糊化温度が低く最高粘度が高い、保水性が大きい、白度が高い、と挙げています。
低い温度で糊化が始まって粘度が最も高くなるということは、少ない加熱で強いとろみが出るという意味です。あんかけのように短時間で仕上げる用途に向きます。白度が高い点も、色を濁らせたくない菓子では利点になります。
一方で、加熱を続ける工程には注意が要ります。ここからは資料の記載ではなく実務の話ですが、粘度がいちばん高くなる点を過ぎると、そこから落ちていきます。高温殺菌や高速の撹拌を通す商品では、狙った粘度が残らないことがあります。馬鈴薯澱粉〈片栗粉〉の使いどころは馬鈴薯澱粉の和菓子活用術で詳しく扱っています。
甘薯澱粉は長い加熱に耐える
意外に知られていないのが甘薯澱粉です。同資料は、糊液は馬でんに似て透明、地上でん粉に比べ粘度が高く長時間の加熱にも安定している、蛋白・脂肪などの不純物が少ない、としています。地上でん粉とは、とうもろこしや小麦のように地上部から採るでん粉のことです。
透明感と粘度の高さを持ちながら、加熱に対して崩れにくい。煮込みの長い工程や、加熱殺菌を通す商品で差が出ます。馬鈴薯澱粉で粘度が落ちてしまう条件でも、甘薯澱粉なら保てる可能性があります。
同資料は、糊化温度・粘度・白度の点では馬でんに劣る、とも書いています。万能ではなく、加熱耐性と引き換えに立ち上がりの良さを譲る、という関係です。
小麦澱粉(浮粉)は粘度が変わりにくい
小麦でん粉について同資料が挙げているのは一点だけです。加熱温度、時間に対して比較的均一な粘度を保持する。
粘度が強いとも弱いとも書かれていません。書かれているのは「変わりにくい」ことです。和菓子で小麦澱粉〈浮粉〉が使われてきたのは、この性質と関係があります。生地に混ぜたときに条件でぶれにくく、透明感のある薄い皮をつくれます。
作業者や釜が変わると仕上がりが動いてしまう商品では、粘度が安定していること自体が価値になります。
なお原材料名を書くときは「小麦でん粉」が基本になります。慣用名の「浮粉」のまま社内の仕様書に流すと表示の段階でつまずくので、後半の「表示と規格書でつまずくところ」で扱います。
粘度の高さと安定性は別の話
ここを混同すると選定を誤ります。強い粘りが欲しいのか、条件が変わってもぶれないでほしいのか。前者なら馬鈴薯澱粉、後者なら小麦澱粉が候補になります。両方を一つで満たす原料はありません。
コーンスターチは平均粒径がいちばん小さい
同資料のコーンスターチの欄にあるのは、粒径6〜25μ(平均14μ)という数字と、酸化処理をした化工でん粉についての記述だけです。素の状態の特性は書かれていません。
原料がとうもろこしなので、遺伝子組換えの分別生産流通管理をどうしているかは、規格書で確認しておく項目になります。ここは商品の表示に関わってきます。
資料から確かに言えるのは、平均粒径で見ると掲載6種のなかで最小の14μだということです。表の下限だけを見るとタピオカの5μのほうが小さいので、比べるときは平均で見てください。打ち粉に使うと口当たりが軽く仕上がるため求肥や餅菓子で選ばれますが、これは資料の記載ではなく、扱ってきたなかでの実感です。コーンスターチの和菓子での使い方はコーンスターチは和菓子に使える?にまとめています。

葛と蕨は同じ棚に並べない
本葛と本蕨粉は、上の表には入っていません。工業原料としてのでん粉と、和菓子の原料としての葛・蕨では、扱われる場所が違うためです。
実務でも同列には比べません。価格が一桁違いますし、求められているのは粘りの数値ではなく、口に入れたときのほどけ方です。本葛や本蕨粉を検討する段階なら、比較の相手は他のでん粉ではなく、加工葛や加工蕨粉になります。
この線引きは本葛と本蕨粉の違いと葛粉とは?本葛と加工葛の違いで扱っています。
原料の規格や製造工程をまとめた資料をご用意しています。選定の判断材料としてお使いください。
作った翌日に硬くなるのはでん粉の性質
でん粉を使った菓子が翌日には硬くなっている、水が出ている。これは配合の失敗とは限りません。糊化したでん粉が時間の経過とともに元の状態へ戻ろうとする性質があり、老化と呼ばれます。
でん粉の老化は、直鎖状のアミロースの割合が大きいほど進みやすいことが知られています。農林水産省の資料でも、サゴでん粉について、アミロース含有量が高く糊化した場合に老化が早い欠点がある、と説明されています。逆にタピオカでん粉は、アミロース含有量が他のでん粉に比べ低い、とされています。
ここから先は商品ごとの試作の話になります。老化のしやすさは原料の性質だけでなく、糖の量や保管温度でも変わります。
どの温度帯に置かれるかを先に決める
実務で効いてくるのが保管の温度帯です。常温で売る商品、冷蔵ケースに並ぶ商品、冷凍で流通させる商品では、翌日以降の状態がまったく違います。
ここを決めずに試作すると、社内では良かったものが店頭で崩れます。冷凍で流通させるなら、解凍したあとに水が出ないかまで確認しないと判断できません。試作の条件に「どこに何日置くか」を入れてください。でん粉を替えるより先に、置かれ方を決めるほうが早いことがあります。
表示と規格書でつまずくところ
でん粉は物性の話で終わりません。原材料表示の書き方が、種類と処理の内容で変わります。ここを知らずに切り替えると、パッケージの刷り直しになります。
加工デンプンは添加物、素のでん粉は食品
まず大きな線引きがあります。消費者庁の資料は、食品衛生法施行規則の一部を改正する省令が平成20年10月1日に公布され、次の加工デンプン11品目については添加物として取り扱われることとなりました、として11の品目名を挙げています。酢酸デンプン、酸化デンプン、リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピルデンプンなどです。いずれも簡略名は「加工デンプン」とされています。
これらを含む食品については、原則として物質名を表示することが必要になります。増粘剤として使う場合など用途名の併記が必要なときは、用途名も記載します。
一方で、同じ資料には線引きの基準がはっきり書かれています。
化学的に加工したものは添加物、物理的・酵素的処理をしたものは食品、という区別です。同資料は、化学的に加工を加えた加工デンプンは添加物として指定されているもの、物理的・酵素的処理を加えたデンプンは食品として取り扱われるもの、としています。同資料は、両方を使っている場合には両方とも表示する必要があるとし、原材料名:○○、○○、でん粉、安定剤(酢酸デンプン)、○○ という表示例を示しています。
この区別が関わってくるのがアルファ澱粉です。加熱して糊化させる処理は物理的な処理にあたるため、その場合は食品として扱われます。表示の上では「でん粉」のままです。添加物の表示を増やしたくない商品で、加熱なしのとろみをつけたい場合、ここは選定の理由になります。ただし個別の製品がどちらに当たるかは規格書で確認してください。
「浮粉」だけでは小麦が読み取れない
もうひとつ、アレルゲンの書き方です。小麦澱粉は小麦由来なので、アレルゲンは小麦です。
消費者庁の資料は、原材料名に特定原材料またはその代替表記を含む場合、それを用いた食品だと理解できる表記であれば、その表示をもって特定原材料の表示に代えられるとしています。拡大表記と呼ばれるもので、小麦の例として挙げられているのは「小麦粉」「こむぎ胚芽」です。
「小麦澱粉」と書けば文字列に小麦が入るので通ります。ところが商品名のまま「浮粉」とだけ書くと、小麦の字がどこにも出てきません。
では書けないのかというと、そうではありません。同資料は、特定原材料を表示するにあたっては個々の原材料の表示の直後に含む旨を表示するのが原則だとしています。「浮粉(小麦を含む)」と併記すれば、アレルゲン表示の要件は満たせます。
順序としては、原材料名は「小麦でん粉」で書くのが基本です。慣用名を使いたい場合に上の形にする、と考えてください。
グルテンフリーを掲げるなら小麦澱粉は前提が変わる
同じ理由で、国内で流通する一般的な小麦澱粉は、グルテンフリーの設計には入りません。馬鈴薯澱粉、甘薯澱粉、コーンスターチ、タピオカでん粉は原料が小麦ではないので候補になります。
ただし原料が違えば済む、という話ではありません。同じ設備で小麦を扱っていれば混入の可能性が残ります。訴求として掲げるなら、原料の置き換えとラインの管理は別々に詰めてください。
もうひとつ、日本にはグルテンフリー表示の法的な定義がありません。米粉について農林水産省がノングルテン米粉のガイドラインを示していますが、これは米粉に限った任意のものです。海外向けの商品では基準が別にあるので、輸出を見据えるなら仕向地のルールを先に確認してください。
規格書で何を出させるか
「規格書で確認してください」と書いてきましたが、何を見るのかを具体にしておきます。でん粉を切り替えるときに仕入れ先へ求める項目です。
- 品名と、食品か添加物かの別。加工デンプン11品目に該当するかどうか
- アレルゲン。小麦澱粉なら小麦。製造ラインで扱う他のアレルゲンも含めて
- 原料原産地。仕様書に記載する根拠になる
- 遺伝子組換えの分別生産流通管理の有無。とうもろこしを原料とするコーンスターチでは必ず聞かれる
- 水分・pH・粒度・微生物の分析値。取引開始の前提になる
この5つが揃えば、表示欄の設計と社内の仕様書はほぼ書けます。逆に揃わないまま試作を進めると、量産の直前で表示に戻ることになります。
用途から選ぶとどうなるか
ここからは商社としての整理です。農林水産省の資料は工業用途を中心に書かれているため、和菓子での選び分けは実務の側から補います。
| やりたいこと | 候補 | 理由 |
|---|---|---|
| 短い加熱で強いとろみ | 馬鈴薯澱粉 | 糊化温度が低く最高粘度が高い |
| 長時間の加熱を通す | 甘薯澱粉 | 長時間の加熱にも安定している |
| 条件が変わってもぶれない | 小麦澱粉〈浮粉〉 | 加熱温度・時間に対して比較的均一な粘度 |
| 打ち粉・口当たりを軽く | コーンスターチ | 掲載6種で平均粒径が最小 |
| 加熱せずにとろみ・つなぎを出したい | アルファ澱粉 | 加熱糊化を済ませてあるため水を加えるだけで粘性が出る |
| 葛・蕨の風合いを出す | 本葛・本蕨粉 | でん粉の粘度ではなく口どけで選ぶ領域 |
アルファ澱粉を選ぶのはどんなときか
ほかのでん粉と選定の軸が違うのがアルファ澱粉です。あらかじめ糊化させてあるので、水を加えるだけで粘性が出ます。
効くのは、加熱の工程を入れられない場合です。生のまま仕上げる菓子、加熱すると別の素材が傷む配合、粉体のまま混ぜて後から水を入れる設計。こうした場面では、加熱しないと働かない他のでん粉は候補から外れます。
もうひとつが、先に触れた表示の扱いです。加熱による糊化は物理的な処理にあたるので、その場合は食品として扱われ、原材料表示は「でん粉」のままになります。
ひとつ紛らわしい点があります。農林水産省の資料は、馬鈴しょでん粉の用途に化工でん粉(アルファでん粉等)を挙げています。この「化工でん粉」は加工の方法による分類で、食品表示で添加物になる「加工デンプン」11品目とは範囲が違います。読みが同じなので混同しやすいところです。
市販のアルファ化した製品には、化学的に加工したでん粉をアルファ化したものもあります。その場合は添加物です。当社品も含め、個別の製品がどちらに当たるかは規格書でご確認ください。
もう一品、蓮粉も各種澱粉類として扱っています。和菓子だけでなく惣菜や加工食品にも回せる原料です。用途を広げると20kgを回しやすくなります。
置き換える前に確認しておく項目
| 確認すること | なぜ見るか |
|---|---|
| 加熱の長さと温度 | 短時間か長時間か。ここで候補が分かれる |
| 求める透明度 | 色を濁らせたくない商品か。白度と糊液の透明度は別の指標 |
| 加熱後の保管 | 冷蔵や冷凍を通すか。でん粉は時間経過で状態が変わる |
| アレルゲン | 小麦澱粉は小麦。原料が変わると表示も変わる |
| 使用量の見直し | 同じ量で置き換えると仕上がりが変わる。配合ごと組み直す |
| 原料原産地 | 馬鈴薯・甘薯・とうもろこしで産地事情が違う。規格書に記載する原料原産地の根拠になる |
| 遺伝子組換えの扱い | 原料によっては分別生産流通管理の有無が問われる。表示がどうなるかを先に確認する |
| 加工デンプンに当たるか | 処理の内容によって表示の扱いが変わる。規格書で確認する |
| 規格書と分析表 | 水分・pH・粒度・微生物。取引開始の前提になる |
| 供給の安定性 | でん粉は作況と用途間の需給で数量も価格も動く。年間契約の要否を見る |
| 荷姿とリードタイム | 各種澱粉類は25kgまたは20kgの規格。置き場所、使い切る速さ、試作から量産への切替時期を見る |
よくある質問
片栗粉とコーンスターチは代用できますか
用途によります。とろみをつけるだけなら量を調整すれば近づけられますが、糊化温度と粘度の出方が違うため、同じ量では同じ結果になりません。透明感や口当たりを商品の要件にしている場合は、置き換えずに配合から見直してください。
甘薯澱粉はあまり見かけませんが使えますか
使えます。農林水産省の資料でも大部分は糖化用とされていて、菓子で使われる量は多くありません。ただ長時間の加熱に安定するという性質は、加熱工程の長い商品では利点になります。試作の価値はあります。
アルファ澱粉はどんなときに使いますか
加熱の工程を入れられない、または入れたくない場合です。すでに糊化させてあるので、水を加えるだけで粘性が出ます。詳しい設計はご相談ください。
でん粉に賞味期限はありますか
商品ごとに設定があります。乾いた粉ではありますが、湿気を吸うと固まります。規格書の記載と保管条件をご確認ください。
少量で試せますか
試作向けのご相談を承っています。複数のでん粉を並べて比べたい、という段階でもお声がけください。
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参考:農林水産省「でん粉の種類、特性、用途等」、消費者庁「アレルゲンを含む食品に関する表示」、消費者庁「加工デンプンの添加物指定について」
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