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植物性だしはかつお節の代わりになる?不足を補う組み合わせ

2026年8月27日

昆布のグルタミン酸に、かつお節のイノシン酸または干し椎茸のグアニル酸を重ねる2つの経路を比べた図
目次

「かつお節を抜いた設計にできませんか」という相談を受けることがあります。ヴィーガンやベジタリアン向けの商品を出したい、精進料理の献立に使いたい、学校給食や病院食で魚介類を使わない献立に合わせたい、といった事情です。輸出を見据えている場合も、動物性原料の扱いが論点になります。

抜くこと自体は難しくありません。問題はそのあとです。かつお節を外した瞬間に、だしから抜け落ちるものがはっきりしています。何が抜けるのかを先に押さえておくと、どう埋めればいいかが見えてきます。

だしの素材 持っているうま味成分 動物性/植物性 担っている役割
昆布 グルタミン酸 植物性 うま味の土台
かつお節・煮干し イノシン酸 動物性 昆布と重ねてうま味を立てる
干し椎茸 グルタミン酸とグアニル酸 植物性 1素材で2系統をまたぐ
大豆(焙煎して使う) グルタミン酸(少量) 植物性 香ばしさとコクを足す

干し椎茸の行に注目してください。かつお節が抜けても、うま味を立てる役はもう一つ植物性の側に残っています。


かつお節を外すと消えるのはイノシン酸

うま味成分は一種類ではありません。うま味インフォメーションセンターの整理では、グルタミン酸はタンパク質を構成するアミノ酸のひとつ、イノシン酸とグアニル酸は核酸系に分類されます。系統が違います。

だしの素材ごとに、どれを多く持っているかが分かれています。昆布はグルタミン酸、かつお節と煮干しはイノシン酸です。和食の合わせだしが昆布とかつお節の組み合わせを選んできたのは、この2系統を掛け合わせるためでした。

干し椎茸はやや事情が違います。同センターの食材別データには、グアニル酸だけでなくグルタミン酸も挙げられています。1素材で2系統をまたぐ、めずらしい立ち位置です。

つまりかつお節を外すと、核酸系のうま味を担う素材がひとつ消えます。昆布だけのだしが物足りなく感じられるのは、掛け合わせる相手を失った状態だからです。

植物性で使える素材はほかにもある

昆布と干し椎茸だけが選択肢ではありません。うま味インフォメーションセンターは精進料理のだしについて、魚や肉の類が禁止されているため鰹節や獣骨などは使うことができず、昆布のほかには干椎茸や大豆、干瓢などの乾物、あるいは野菜の皮を干したものを使用する、と説明しています。

素材 位置づけ 使うときの注意
昆布 グルタミン酸の土台。精進だしでも主役 産地で味の質とうま味の強さが変わる
干し椎茸 核酸系のグアニル酸を担う 同センターは、うま味と香りが濃厚だが反面クセが強く、多く使いすぎると味のバランスを壊してしまう、としている
大豆 精進だしの乾物として古くから使われてきた 焙煎するかどうかで香りの出方が変わる
干瓢 同じく精進だしの乾物 国内の産地が限られる
野菜の皮を干したもの 端材を使える 素材が一定しないため味がぶれやすい
トマト・にんにくなど 同センターの食材別データでグルタミン酸が挙げられている 和の献立では香りが立ちすぎることがある

ここで目を引くのが大豆です。焙煎した大豆を使うという発想は新しく見えますが、大豆そのものは精進だしの乾物として挙げられています。後半で触れる焙煎大豆は、この延長線上にあります。


うま味は重ねると強くなる

この掛け合わせには名前がついています。うま味の相乗効果です。

うま味インフォメーションセンターの資料をたどると、経緯はこうです。1957年、ヤマサの国中明がグアニル酸の塩もうま味を呈することを発見しました。その国中が、グルタミン酸塩とイノシン酸塩またはグアニル酸塩の間に大きな相乗作用があることを見つけています。

効果の大きさが数字で示されているのは、このうちグルタミン酸ナトリウムとイノシン酸ナトリウムの組み合わせです。同センターは、後に山口静子が調べた結果として、両者の相乗作用はきわめて大きく、混ぜるとうま味が7〜8倍強くなる、と説明しています。

ここで効いてくるのが、相乗作用の相手はイノシン酸だけではないという点です。同センターは、グルタミン酸塩とグアニル酸塩の間でも同じような相乗作用が見られる、としています。倍率までは示されていませんが、掛け合わせが成り立つこと自体は同じです。そしてグアニル酸を持っているのが干し椎茸です。

昆布のグルタミン酸に、かつお節のイノシン酸または干し椎茸のグアニル酸を重ねる2つの経路を比べた図
うま味の相乗効果は、かつお節がなくても作れる(うま味インフォメーションセンター、農林水産省の資料より作成)

動物性を外すという条件は、うま味の相乗効果をあきらめるという意味ではありません。組み合わせる相手をかつお節から干し椎茸に付け替える、という話になります。


干し椎茸は戻し方で結果が変わる

ただし、干し椎茸には扱いの条件があります。

うま味インフォメーションセンター「核酸系うま味物質と相乗作用の発見」は、干しシイタケを戻すときは、室温ではグアニル酸が分解してしまいますので、冷蔵庫で戻すのがいいのですとしています。

これは現場の手順に直結します。仕込みの前日に常温で水に浸けておく運用をしている場合、狙っていたうま味が目減りしている可能性があります。植物性だしで昆布と椎茸の組み合わせに頼るなら、戻し工程を冷蔵に変えるだけで結果が変わります。条件は固定して記録に残してください。

抽出は一気に温度を上げる

同センターは抽出の温度にも踏み込んでいます。グアニル酸を作る分解酵素の活性は60〜70度で最大になり、一方でグアニル酸の分解酵素は45〜50度で最大になる。だからだしを取るときは、だらだらと温度を上げるのではなく一気に60〜70度に上げればグアニル酸が増える、という説明です。

参考になるのは、うま味インフォメーションセンターの精進だしの手順です。そこでは干し椎茸は汚れを落とし、半日水につけておくとされており、椎茸は加熱せずに水だしを後から加える形になっています。椎茸のだしを加熱して取るのか水だしで合わせるのかは、自社の工程としてどちらかに決めておいてください。

いずれにせよこれは、かつお節を使っていたときには意識しなくてよかった条件です。イノシン酸は乾燥したかつお節にすでに含まれている成分で、抽出の温度の上げ方で大きく増減するという記述は資料に見当たりません。グアニル酸のほうは、戻し方や昇温の仕方で増えも減りもします。植物性に切り替えるなら、昇温の速さまで作業手順に入れておく必要があります。

昆布側の抽出条件も決めておく

椎茸の条件だけ決めても、もう一方が決まっていなければ再現しません。同センターは昆布だしの取り方を2つ示しています。水出し法は、容器に昆布と水を入れ一晩冷蔵庫に入れて抽出する方法。煮出し法は、水に昆布を入れ60度の温度を維持して1時間煮る方法です。

精進だしの手順も示されていて、干し椎茸は汚れを落として半日水につけておき、昆布は60度の温度を保って1時間加熱して取り出し、そこへ椎茸の水だしを加える、という流れです。椎茸を冷蔵で戻すという先の話と合わせると、量産の作業手順に落とすべき条件が見えてきます。

昆布と椎茸の比率は試作で決める

比率について、同センターは、うま味の相乗効果はグルタミン酸とイノシン酸がほぼ等量の時に最も強くなるという研究結果もある、と書いています。京都の老舗料亭の一番だしはこの点で理にかなっている、という文脈です。

ただしこれはグルタミン酸とイノシン酸の組み合わせについての話です。椎茸のグアニル酸に置き換えたときに同じ比率が最適になるとは書かれていません。等量という数字をそのまま持ち込まず、比率を振った試作で決めてください。

設計と工程はセットで見る

配合を決める段階では素材の選定に目が行きますが、核酸系のうま味成分は工程の条件で増減します。試作は冷蔵で戻して良い結果が出たのに、量産では常温で戻していて再現しない、という食い違いが起こりえます。レシピだけでなく、戻し温度と時間まで指示書に落としておくのが確実です。


それでも残る物足りなさの正体

昆布と干し椎茸で相乗効果は作れます。それでも、かつお節を使っただしと並べると違いが残ります。

うま味の強さだけの問題ではありません。工程が違います。

農林水産省の資料は、かつお節を、かつおを煮て焙乾(くん乾)を繰り返して水分が26%以下になるようにしたもの、と定義しています。煮るだけでも干すだけでもなく、燻す工程を繰り返して水分を落としきった素材です。さらに同資料は、かつおを茹でて燻製にしたものを荒節、荒節を削ったものを裸節、カビをつけて熟成させたものを枯節、数回のカビ付け処理をしたものを本枯節と区別しています。

ここからは設計上の話です。昆布と干し椎茸は、いずれもこの焙乾の工程を通っていません。うま味の系統は揃えられても、燻した素材が持つ層はそのままでは出てきません。植物性で組み直すときにつまずくのは、たいていこの部分です。うま味は足りているのに輪郭がぼやける、という状態になります。

足りないのは強さではなく層

ここを取り違えると、対処を間違えます。物足りないからと昆布や椎茸の量を増やすと、うま味だけが濃くなって重たい味になります。香りの層が抜けている場合に足すべきなのは、うま味ではなく別の系統の香りです。


焙煎した大豆を足すという選択肢

香ばしさを植物性で足す方法のひとつが、焙煎した豆を使うことです。

美濃与の大豆出汁は、国産大豆を焙煎してつくる植物性の出汁です。大豆を焙じることで生まれるやさしい甘みと香ばしさに、椎茸と昆布のうま味を合わせています。うま味の主役は昆布と椎茸が担い、大豆は香ばしさとコクの層を足す役回りです。

だしを取ったあとの具材もそのまま食べられるため、廃棄を減らしたい現場との相性もあります。

焙煎の度合いで香りの出方が変わる

焙煎した豆の香ばしさは、焙煎の深さで変わります。美濃与ではいずれも国産大豆を使い、焙煎度合いを高めた深煎りきな粉と、過度な焙煎を避けた美濃与きなこの2規格をつくっています。前者は香りをはっきり立てたい用途、後者は他の素材と調和させたい用途に向きます。

だしに使う場合も見方は同じで、香りの出方は焙煎の深さで変わります。香りを主張させたいのか下支えに回したいのかを試作の段階で決めておくと、あとの調整の幅が残ります。

希釈して使うなら濃縮タイプ

調味まで含めて1本で組み立てたい場合は、大豆だしつゆという5倍濃縮の規格があります。焙煎大豆の出汁に椎茸と昆布のうま味、木樽仕込みの再仕込み醤油を合わせ、素材から煮出して組み立てたものです。

めんつゆや割り下として希釈するほか、煮物やだし巻きにも使えます。原材料に動物性を使っていないため、ヴィーガンや精進の献立にも組み込めます。製造ラインの条件は個別にご確認ください。

原料の規格や製造工程をまとめた資料をご用意しています。選定の判断材料としてお使いください。

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どの商品から切り替えるか

全商品を一度に植物性へ振り替える必要はありません。差が出やすい用途と、通しやすい用途があります。

用途 切り替えのしやすさ 理由
吸い物・すまし汁 難しい だしがそのまま前に出る。かつお節の香りの層が抜けたことに気づかれやすい
味噌汁 やや難しい 味噌が乗るぶん隠れるが、飲み慣れた味との差は出る
煮物・炊き込みご飯 通しやすい 醤油や具材の風味が重なる。焙煎の香ばしさが素材と噛み合う
めんつゆ・割り下 通しやすい 調味が濃く、だし単体の印象が薄まる。ただし、かつお感を売りにしているつゆは例外
洋食・中華の隠し味 通しやすい 元々かつおだしを前提にしていない

ヴィーガン対応の商品を新しく立ち上げるのか、既存商品の原材料を差し替えるのかでも難易度が変わります。既存品の差し替えは、それまで買っていた人が味の違いに気づく前提で進めることになります。下から順に替えていくほうが安全です。


業務用で確認しておく項目

植物性だしへの切り替えは、味の設計だけで完結しません。仕様を詰める段階で確認しておきたい点を挙げます。

確認すること なぜ見るか
原材料の全構成 だしの素材が植物性でも、調味の段階で動物性が入っていないか。エキス類は特に確認する
製造ラインの状況 同じラインで動物性原料を扱っているか。ヴィーガン対応やハラル認証では設備側も問われる
アレルゲンの表示 大豆や小麦が入る。かつお節を外して別のアレルゲンが増えては本末転倒になる
戻し・抽出の条件 温度と時間で結果が変わる。試作の条件を量産にそのまま渡せるか
塩分と濃縮倍率 濃縮品は希釈前提。既存レシピの塩分設計に合うかを先に計算する
供給の安定性 昆布も椎茸も農水産物。数量と価格の見通しを年単位で確認する
形態と抽出の手間 パック形態か原料出荷か。抽出工程が増えるなら現場の作業時間に跳ねる
原価への影響 かつお節との置き換えで原料構成がどう動くか。歩留まりと使用量まで含めて比べる
サンプルでの官能 数値で置き換えられない部分が残る。既存品と並べて比べる

原材料表示だけでは動物性を外しきれない

ここは購買担当が最初につまずくところです。表を見るだけでは判断できない経路が3つあります。

ひとつは調味の段階です。だしの素材が植物性でも、かつおエキスやチキンエキスが調味として入っていることがあります。エキス類は表示上ひとまとめになりやすく、名前からは由来が読み取れません。

もうひとつが、表示を省略できる添加物です。消費者庁の資料は、最終的に食品に残っていないもの(加工助剤)と、残っていても量が少ないために効果が発揮されないもの(キャリーオーバー)について、表示の省略が可能となっている、としています。表示に出てこないことと、使われていないことは別です。

3つ目が製造ラインです。原材料をすべて植物性にしても、同じ設備で動物性原料を扱っていれば混入の可能性は残ります。ヴィーガン対応やハラルを掲げる場合、ここまで問われます。

いずれも規格書を取り寄せて確認するしかありません。「植物性だしを使っています」という一文を商品に載せるかどうかは、この3つを潰してから決めてください。


よくある質問

昆布だけのだしでは足りませんか

用途によります。素材の味を邪魔したくない吸い物などでは、昆布だけで組む設計もあります。ただしうま味の相乗効果は、系統の違う成分を掛け合わせたときに起こります。しっかりした味を求めるなら、干し椎茸のような核酸系を持つ素材を重ねるほうが近道です。

干し椎茸の香りが強く出すぎませんか

戻し方と使用量で調整します。香りが商品の方向性に合わない場合は、椎茸に頼る比率を下げて、焙煎大豆のような別の香りの層で補う組み立てもあります。試作の段階で両方を比べてください。

ヴィーガン認証やハラル認証には対応できますか

認証の要件は制度ごとに違い、原材料だけでなく製造工程や管理体制も対象になります。ハラルについては、魚そのものが問題になるというより、動物性原料全般の由来証明、アルコール分、製造ラインの管理が論点です。醤油やみりんを使う設計では、アルコール分が先に問われます。取得を前提にした調達では、必要な書類の範囲を先に整理したうえでご相談ください。

既存のかつおだしと同じ味にできますか

同じにはなりません。イノシン酸と焙乾の香りが抜けた分、別の素材で組み直すことになります。似せることを目標にするより、植物性だからこその輪郭を活かした設計にしたほうが商品として立ちます。

サンプルで試せますか

試作向けのご相談を承っています。既存品と比べたい、という段階でもお声がけください。


あわせて読みたい

参考:特定非営利活動法人 うま味インフォメーションセンター「核酸系うま味物質と相乗作用の発見」「食材別うま味情報」「だしのお話」農林水産省「にっぽん伝統食図鑑・かつお節」


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伏見の大豆焙煎所では国産大豆を焙煎しており、出汁や飲料素材はこの設備から生まれています。動物性原料を外した設計でお困りの点があれば、試作の段階からご相談ください。

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