和菓子の日持ちを延ばしたいとき、選択肢はいくつもあります。保存料、日持ち向上剤、脱酸素剤、アルコール製剤、糖の配合。どれも「日持ちを延ばす」という点では同じ方向を向いていますが、実務上の扱いは大きく違います。
とくに見落とされやすいのが、保存料と日持ち向上剤の違いです。この2つは表示のルールが変わります。さらに、保存料を避けて他の添加物で日持ちを延ばし「保存料不使用」と表示することには、消費者庁のガイドラインで注意が示されています。設計の初期に押さえておきたい論点です。
保存料と日持ち向上剤の違い

| Item | 保存料 | 日持ち向上剤 |
|---|---|---|
| 定義 | 食品の微生物による腐敗、変敗を防止することにより、食品の保存性を向上させる目的で使用される食品添加物 | 短期間(数日間内)の腐敗、変敗を抑えるための添加物 |
| 法令上の位置づけ | 食品表示基準で用途名の表示が求められる | 食品衛生法で定められた用語ではない |
| 効果 | 食品の保存性を向上させる | 保存料と比べて効果は弱く、食品の種類によって効果が異なる |
| labeling | 「保存料(○○)」と用途名と物質名を併記する | 物質名のみの表示でよい(名簿に用途名が存在しないため) |
| 主な物質 | ソルビン酸、安息香酸、ポリリジン、プロタミン | グリシン、リゾチーム、各種抽出物(わさび、ローズマリー等) |
Source広島県「『保存料』,『日持ち向上剤』について」、消費者庁「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」adapted from
「日持ち向上剤」は法律用語ではない
意外に思われるかもしれませんが、日持ち向上剤という言葉は、食品添加物の名簿に用途名として存在しません。日持ちを良くする効果をもつ添加物を、業界で総称してそう呼んでいるものです。
食品添加物の名簿にも「日持ち向上剤」という用途名は存在しません。そのため「日持ち向上剤」という用途名で表示することはありません。たとえばグリシンを日持ち向上目的で使った場合、原材料表示には物質名の「グリシン」と書くことになります。
注意したいのは、市販されている製剤の多くが複数の添加物を組み合わせたものだという点です。製剤の商品名がそのまま表示になるわけではなく、構成する添加物ごとに使用目的や表示免除の可否、アレルゲン表示の要否を個別に判断します。ポリリジンを保存料として含む製剤であれば、その部分は「保存料(ポリリジン)」として表示することになります。
保存料は用途名の併記が必要
一方、保存料は食品表示基準で用途名の表示が求められる用途のひとつです。ポリリジンを保存料として使うなら「保存料(ポリリジン)」という書き方になります。
ここが設計上の分かれ目になります。同じ「日持ちを延ばす」という目的でも、保存料を選べばパッケージに保存料という文字が載ります。
ただし、だから保存料を避けて「保存料不使用」と書けばよい、という話にはなりません。ここに落とし穴があります。
「保存料不使用」と書けるかは別の問題
消費者庁は2022年3月に「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」を公表しています。無添加や不使用の表示について、消費者に誤認を与えないよう留意すべき事項を10の類型に整理したものです。
このうち類型4が、ここに直接あたります。
類型4:同一機能・類似機能を持つ食品添加物を使用した食品への表示
「○○無添加」「○○不使用」としながら、○○と同一機能・類似機能をもつ他の食品添加物を使用している場合が該当します。挙げられている例が、日持ち向上目的で保存料以外の食品添加物を使用した食品に「保存料不使用」と表示することです。
つまり、保存料を使わずにグリシンなどで日持ちを延ばし、パッケージに「保存料不使用」と書く。この組み合わせは、食品表示基準第9条の表示禁止事項に当たるおそれがある例として、ガイドラインに明記されています。
理由は、消費者が添加物を避けたいと考えている場合に、不使用と書かれた添加物と、同じ機能をもつ別の添加物の違いが表示から分からないためです。実際より優良または有利であると誤認させるおそれがある、という整理になっています。
ガイドラインは不使用表示を一律に禁止するものではない
ガイドライン自体は、不使用表示を一律に禁止するものではないとされています。事業者が食品表示基準第9条の表示禁止事項に当たるかどうかを自己点検する際に使えるもの、という位置づけです。
ただし実務としては、日持ち向上を目的とした添加物を使いながら保存料不使用を掲げる設計は、指摘を受ける可能性が高いと考えておく方が安全です。あわせて、原材料段階で使われている保存料やキャリーオーバー、加工助剤の扱いも確認が必要になります。
効果の持続期間が違う
広島県の資料では、日持ち向上剤は短期間(数日間内)の腐敗・変敗を抑えるための添加物として説明されています。ただしこれは一般的な説明であり、日数で法的に区分されるわけではありません。
もともとは、家庭で作られていた惣菜やサラダが加工食品として流通するようになったことに伴って使われるようになった経緯があります。日配品のように短いサイクルで消費される商品を想定した設計です。
どちらを選ぶかは、商品の流通期間と設定したい賞味期限から逆算することになります。ただし表示上の扱いは、日数ではなく使用する物質と使用目的によって決まります。
なお日持ち向上剤は、食品の種類によって効果が異なるとされています。他社の菓子で効果があった製剤が、自社の配合でも同じように働くとは限りません。
添加物以外の選択肢もある
日持ちを延ばす手段は、添加物だけではありません。和菓子の製造現場では次のような方法が併用されています。
| 手段 | 働き方 | 表示への影響 |
|---|---|---|
| 脱酸素剤 | 包装内の酸素を取り除く | 食品に添加するものではないため原材料表示には含まれない |
| アルコール製剤 | 器具や設備の衛生管理に使うものと、食品に直接使うものがある | 設備のみに使う場合は原材料表示の対象外。食品に使い加工助剤に該当しない場合は添加物として表示が必要 |
| 糖の配合を上げる | 水分活性を下げる | 使用した砂糖や水あめなどを原材料として表示する |
| 包装形態を変える | 外気との接触を減らす | 原材料表示には影響しない |
脱酸素剤は、包装内の酸素を取り除くことでカビの発生や酸化を抑えます。食品そのものに加えるわけではないため、原材料表示の対象にはなりません。
ただし、表示を避けるための手段として安易に選ぶものではありません。酸素を取り除くことで、かえって酸素のない環境で増える菌が問題になる場合があります。包材のガスバリア性、密封性、想定する微生物、保存温度を含めて危害要因を検討したうえで採用してください。
糖の配合を上げる方法は、和菓子では古くから使われてきた考え方です。羊羹や練り切りが比較的日持ちするのは、糖度の高さによるところがあります。ただし味の設計が変わるため、日持ちだけを理由に糖度を上げると商品の性格が変わってしまいます。
原料の規格や製造工程をまとめた資料をご用意しています。選定の判断材料としてお使いください。
設計の順序を決めておく
日持ちの検討は、次の順で考えると手戻りが減ります。
| 順番 | 決めること | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | 必要な日持ちの日数 | 数日なのか数週間なのかで、選ぶ手段が変わる |
| 2 | 表示の制約があるか | 不使用表示を検討しているなら、ガイドラインの類型に当たらないかを先に確認する |
| 3 | 包装で対応できる範囲 | 脱酸素剤や包装形態は原材料表示に影響しない |
| 4 | 配合で対応できる範囲 | 糖度や水分活性の調整は味に影響する |
| 5 | 添加物で補う範囲 | ここまでで足りない分を検討する |
この順序は、当社が実務の相談を受けるなかで整理したものです。法令上の決まりではありませんが、表示の制約を先に確認しておくと、あとから配合をやり直す事態を避けられます。
実際の使用にあたって
添加物の使用基準は物質ごとに定められており、対象食品や使用量の上限が決まっているものがあります。使用にあたっては製剤ごとの規格書と使用基準を確認してください。
また、日持ちの検証は最終的に自社での保存試験によります。同じ製剤を使っても、配合、水分、pH、包装形態、保管温度によって結果は変わります。他社の使用例をそのまま持ち込まず、自社の条件で確認することをおすすめします。
美濃与で扱う日持ち関連の資材
美濃与では、日持ち向上に関わる製剤や資材を複数扱っています。用途や目標とする日持ち日数、表示の制約をお伝えいただければ、条件に合うものをお選びしてご提案します。
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Frequently asked questions
保存料を使わずに日持ちを延ばせますか
脱酸素剤や包装形態の見直し、糖の配合調整といった方法があります。ただし必要な日持ち日数によっては、これらだけでは足りない場合もあります。目標とする日数を決めたうえで検討してください。
保存料の代わりにグリシンを使えば「保存料不使用」と書けますか
消費者庁のガイドラインでは、日持ち向上目的で保存料以外の食品添加物を使用した食品に「保存料不使用」と表示することが、表示禁止事項に当たるおそれがある例として挙げられています。表示を検討する前に、ガイドラインの類型に当たらないかを確認してください。
グリシンは表示しなくてよいのですか
表示は必要です。ただし用途名の併記は求められず、物質名の「グリシン」として表示します。保存料のように「保存料(○○)」という書き方にはなりません。
日持ち向上剤を入れれば何日延びますか
一律には決まりません。日持ち向上剤は食品の種類によって効果が異なるとされており、配合や水分、包装によっても結果が変わります。自社での保存試験で確認する必要があります。
脱酸素剤は原材料表示に書きますか
食品に添加するものではないため、原材料表示には含まれません。包装内に封入して使う資材という位置づけです。ただし採用にあたっては、酸素を除くことで生じる微生物のリスクを含めて検討する必要があります。
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