同じ名前の粉を仕入れたのに、前と同じ配合で作ると生地の状態が違う。粉を切り替えたら水の入り方が変わった。こうした経験は、和菓子の製造現場では珍しくありません。
農林水産省の資料には、上新粉・白玉粉・もち粉といった米粉には小麦粉のような規格や定義がなく、地域によって製粉方法がさまざまであると記されています。同じ呼び名でも、どう挽いたかによって粉の性質は変わります。
ここでは同資料をもとに、製粉方法の違いと、それが生地に及ぼす影響を整理します。なお資料が扱うのは糊化していない米粉(β米粉)全般で、もち米・うるち米の両方が対象です。
粉の性質を決める3つの要因
製粉によって生じる粉の特性は、主に次の3つで説明されます。
- 粒度(粒の細かさ)
- 粉砕時に生じるでんぷん損傷率
- 原料米のアミロース含有量
このうちアミロースは原料米で決まり、粒度とでんぷん損傷率は製粉方法によって変わります。
でんぷん損傷率とは
米は小さなでんぷん細胞の集まりでできており、細胞と細胞のあいだには細胞壁があります。粉砕するとこの集合体が壊れますが、必ずしも細胞壁のところで分かれるわけではなく、細胞そのものが傷つくことがあります。この壊れた割合をでんぷん損傷率と呼びます。
資料では、でんぷん損傷率によって米粉食品の生地の柔らかさや加水量に影響が及ぶとされています。粉を切り替えたときに水の入り方が違うと感じる背景には、この差が関係している可能性があります。
まず「乾式か湿式か」で分かれる

資料はまず、製粉方法を乾式と湿式に分けています。
| 製粉方法 | 工程 | 平均粒度 | でんぷん損傷率 |
|---|---|---|---|
| 乾式製粉 | 精米された白米をそのまま粉砕する | 100μm前後 | 10%前後 |
| 湿式製粉 | 浸漬 → テンパリング → 粉砕 → 乾燥 | 使う粉砕機による | 使う粉砕機による |
乾式は工程が簡便な一方、でんぷん損傷率は比較的高くなる傾向があるとされています。粉砕のエネルギーを強くしたり時間をかけたりすれば粒子は細かくできますが、その分だけ損傷率も高くなる傾向があります。
湿式が高品質とされる理由
湿式製粉は、昔から和菓子に用いられてきた製法です。白米を洗ってぬかやほこりを落とし、水に浸して吸水させます。白米の水分は13%前後で、飽和水分値はおよそ30%。ここまで吸水させるのが浸漬工程です。
その後15分から60分ほど寝かせ、米の芯まで水分を行き渡らせます(テンパリング工程)。ここまでやってから粉砕に入る理由は、水分が浸透した米は細胞間がゆるみ、小さなエネルギーで挽けるためです。細胞壁のところで分離する確率が高まり、粉砕そのものも容易になります。
粉砕後の米粉は水分が高いため、流通させるには乾燥工程で13%程度に戻します。
出典農林水産省「製粉技術から見た米粉の特性」より作成
気流粉砕機はパン・麺・洋菓子・米菓・調理向け
気流粉砕機は、粉砕ゾーンでブレードが高速で回転し、その周囲を波型のライナーが覆っています。ブレードとライナーのわずかな隙間を気流が高速で回り、巻き込まれた米が原料同士で衝突を繰り返して砕かれていきます。
高速気流を媒体としているため粉砕熱が軽減され、米粉のα化を防ぐことができます。粒度は平均30〜60μm程度と細かく、でんぷん損傷率も5%以下と低い水準です。
また、高速気流によって粉が排出されるため、フルイによる粒度選別を経ずにそのまま乾燥工程へ進めます。主な用途として米粉パン、米粉麺、洋菓子などが挙げられており、小麦粉の代替として小麦アレルギーへの対応にも使われます。
ロールミルは上新粉などに使われる
ロールミルは、高速と低速の回転差をつけた2本のロールで米を剪断する方式です。ロールの表面には剪断作用を高める溝歯が加工されており、鋭角側と背角側の組み合わせを変えて粉砕します。
米粉の製粉では湿式で使う場合があり、そのときは水分を25%前後に調整します。水分が高すぎるとロールの溝歯に米粉が巻きついて粉砕できなくなるためです。
粒度はフルイ機で調整し、設定した網目より小さいものを製品とし、大きいものは再度粉砕します。フルイを通った粉はそのまま乾燥工程に移り、和菓子用の上新粉などに使われます。
資料では、品質はスタンプミルほど高くなく、大量生産向けとして用途に合わせて使い分けられると説明されています。
スタンプミルは和菓子用米粉の代表的な製粉機
スタンプミルは、餅つきのような臼に米を仕込み、金属製の杵で搗いて粉砕する機械です。吸水させた米を使う湿式で行います。
米は杵の圧力を受けますが、臼がすり鉢状になっているうえ一定量の層の厚みがあるため、米同士が擦れて押しつぶされる磨砕方式になります。臼の上部の後方から米を供給し、前方はカットされていて、米が入れ替わりながら溢れて排出されます。
排出された米粉は粒子をそろえるためにフルイと組み合わせて使われ、粗い粉は再びスタンプミルに戻して挽き直します。最後に乾燥工程を経て仕上げます。
原料の規格や製造工程をまとめた資料をご用意しています。選定の判断材料としてお使いください。
用途によって向く製法が変わる
農林水産省の資料では、用途と製法の対応が次のように整理されています。
| 用途 | 適するとされる製法 | 理由 |
|---|---|---|
| パン・麺・洋菓子・米菓・調理 | 気流粉砕機 | 細かい粒度と低い損傷率でさまざまな食品に利用できる |
| 和菓子・米菓 | スタンプミル/ロールミル | スタンプミルは和菓子用の代表的な製粉機。ロールミルは上新粉などに使われる |
| 小麦粉の代替 | 気流粉砕機 | 利用範囲が広く、小麦アレルギーの対策として活用できる |
| 小ロット・玄米・有色米・有機米 | 小型の気流粉砕機 | 大型設備では清掃効率やコンタミ防止の面で対応されないことがある |
資料には、加工する米粉食品の種類や特徴に合わせた製粉方式の米粉を選ぶ必要があると記されています。用途の傾向は上記のとおりですが、実際にどの粉が合うかは作る菓子によります。
粉を切り替えるときに確認すること
製粉方法が違う粉に切り替えるときは、次の点を押さえておくと想定外の変化を避けられます。
| 確認項目 | なぜ必要か |
|---|---|
| 製粉方法 | 乾式か湿式か、どの粉砕機か。損傷率の傾向が変わる |
| 粒度(メッシュまたは粒度分布) | 粒子が大きいと舌触りが粗く、細かいとなめらかに感じられる |
| 加水量の見直しが要るか | 資料ではでんぷん損傷率が生地の柔らかさや加水量に影響するとされている |
| 原料米のアミロース値 | 資料では粒度・でんぷん損傷率とあわせて加工適性に影響する要因として挙げられている |
なお、この確認項目は資料の記述をもとに当社が実務向けに整理したものです。資料そのものに発注時のチェックリストが載っているわけではありません。加水量については、前の粉と同じ水量のまま仕込まず、試作で確かめることをおすすめします。
美濃与で扱う餅粉・米の粉
美濃与では、餅粉と米の粉をそれぞれ複数の規格で扱っています。製法を明示しているものと、そうでないものがあります。切り替えを検討される場合は、現在お使いの粉の製粉方法と粒度をお知らせいただければ、近い性質のものをお選びします。
実際の粒度や吸水の傾向は、試作用のサンプルで確かめていただくのが確実です。
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よくある質問
気流粉砕の粉は和菓子に使えますか
資料はスタンプミルを和菓子用米粉の代表的な製粉機として挙げていますが、気流粉砕の粉を和菓子に使えないとは記していません。資料が示すのは用途ごとの一般的な傾向で、実際にどの粉が合うかは作る菓子によります。試作で確認してください。
粒度が細かいほど良い粉ですか
用途によります。資料では、粒子が大きいと舌触りが粗く、細かいと舌触りも細かく感じられるとされています。なお乾式製粉については、エネルギーを強くしたり時間をかけたりして粒子を細かくすると、その分でんぷん損傷率も高くなる傾向があると記されています。
でんぷん損傷率は規格表に書いてありますか
記載されていない場合もあります。資料では、でんぷん損傷率は粉砕機によって異なるとされており、数値が示されているのは乾式製粉(10%前後)と気流粉砕機(5%以下)のみです。スタンプミルとロールミルについては数値の記載がないため、製粉方法だけで損傷率を推し量ることはできません。仕入先に確認してください。
粉を切り替えたら生地の状態が変わりました
でんぷん損傷率は生地の柔らかさや加水量に影響します。ただし粒度やアミロース値、原料米の品種も関わるため、損傷率だけで原因を特定することはできません。製粉方法と粒度を確認したうえで、加水量を調整して試作してください。
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美濃与は京都に拠点を置く京菓子原材料の専門商社です。本記事で取り上げた餅粉・米の粉の業務用調達や、お試しサンプル、ロット・規格のご相談など、和菓子製造の現場に寄り添った提案を行っています。
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