どら焼きの皮がうまく膨らまない、蒸し饅頭に黄色い斑が出る。膨張剤まわりの相談は、たいてい「量を変えれば直るのか」という形で来ます。
ただ、重曹とベーキングパウダーは量の大小の話ではありません。膨らませ方の仕組みが違い、そこから色と味の出方が分かれます。原材料表示の書き方にも関わってきます。開発と購買の両方に関わる話なので、順に整理します。
| 比較項目 | 重曹 | Baking Powder |
|---|---|---|
| 正式な物質名 | 炭酸水素ナトリウム | 複数の添加物の組み合わせ |
| ふくらませ方 | 加熱で分解して炭酸ガスを出す | 重曹に酸性の剤などを組み合わせてガスを出す |
| 加熱後に残るもの | アルカリ性の炭酸ナトリウム。和菓子では色と香りとして活きる | 酸剤を配合してあるため、炭酸ナトリウムが残りにくい |
| 仕上がりの色 | 黄色みが出やすい | 色の出方が穏やか |
| よく使われる場面 | どら焼き、蒸し饅頭、かりんとう | ケーキ、クッキー、色を出したくない生地 |
| 美濃与の規格 | 1kg | 2.25kg |
「よく使われる場面」は一般的な使われ方であって、剤ごとに使える菓子が決まっているわけではありません。後述するとおり、美濃与では3剤とも同じ用途を挙げています。和菓子で重曹が使われてきたのは、黄色みと独特の香りが商品の一部になっているからです。
ふくらませる仕組みが違う
重曹の正式な物質名は炭酸水素ナトリウムです。消費者庁の解説は、重曹について、水分がある状態で加熱されると炭酸ガスが発生し生地を膨らませる作用を持つ、と説明しています。この気泡が生地を持ち上げます。
同じ解説が、そのあとに起きることも書いています。苦みのあるアルカリ性物質(炭酸ナトリウム)が生成してしまう、という記述です。ガスとして抜けずに残るのがこれで、量を増やすほど強く出ます。どら焼きの皮が黄色く寄るのも、この性質と関係しています。
ベーキングパウダーは、この点を組み合わせで解いています。消費者庁の解説は、ベーキングパウダーは炭酸水素ナトリウム(重曹)に酸剤(酸性の物質)を配合したものだとしたうえで、この炭酸ナトリウムが生成してしまう点を改良するために酸剤が配合されています、と説明しています。苦みと色が出にくいのはこのためです。
なお同じ解説は、硫酸アルミニウムカリウムと硫酸アルミニウムアンモニウムは酸剤の一種である、とも書いています。ミョウバン系がこれにあたります。後述するアルミ不使用の話につながる部分です。
色が出ることは欠点とは限らない
和菓子では、この黄色みを積極的に使ってきました。どら焼きの皮の色、かりんとうの香ばしさ。ベーキングパウダーに置き換えると膨らみは確保できても、見慣れた色から離れます。既存商品の原料を切り替えるときは、膨らみだけでなく色を並べて確認してください。
蒸し饅頭に斑が出る場合は、剤の選定より先に混ぜ方を疑ってください。粉のまま生地に入れると溶け残ります。水で溶いてから加えると均一に分散します。

表示の扱いが保存料とは違う
ここからが購買側の話です。膨張剤は、原材料表示での書かれ方が保存料などとは違います。
消費者庁の資料は、物質名で書くことを原則としたうえで、用途名の併記が要るもの、一括名で書けるもの、表示が要らないものを整理しています。
用途名の併記が必要なものとして挙げられているのは、甘味料、着色料、保存料、増粘剤・安定剤・ゲル化剤又は糊料、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防かび剤又は防ばい剤です。この区分に入ると、用途名に括弧を付けて物質名まで書くことになります。
一方、一括名で表示することが認められているものとして挙げられているのが、イーストフード、ガムベース、かんすい、酵素、光沢剤、香料、酸味料、チューインガム軟化剤、調味料、豆腐用凝固剤、苦味料、乳化剤、水素イオン濃度調整剤、そして膨張剤です。
膨張剤はこちらに入ります。物質名の代わりに、この区分名を書くことができます。
使える表記の範囲は通知で定められています。消費者庁の資料には、表示できる食品添加物の範囲は通知で規定されている、という注記が付いています。
認められている表記は1つではありません。この区分には「膨脹剤,膨張剤,ベーキングパウダー又はふくらし粉」の4つが挙げられ、パン、菓子等の製造工程で添加し、ガスを発生して生地を膨脹させ多孔性にするとともに食感を向上させる添加物及びその製剤、と定義されています。この定義は平成8年の厚生省通知(衛化第56号)に示されていたもので、表示のルールはその後、消費者庁の通知「食品表示基準について」に引き継がれています。膨らませる目的で使う場合の話だ、ということです。どの表記を採るかは、製品全体の表示と規格書に合わせて決めてください。
なぜ一括名でよいのか
同資料は理由もはっきり書いています。一括名で表示できるのは、複数の添加物の組合せで効果を発揮することが多い食品添加物や、食品中にも通常存在する成分と同じ食品添加物である、という説明です。
ベーキングパウダーは、この説明のとおり組み合わせで働きます。ただし組み合わせでなければ対象外、ということではありません。定義が「添加物及びその製剤」である以上、重曹だけを使った場合でも、膨らませる目的である限り区分としては膨張剤です。保存料と日持ち向上剤の違いで扱ったソルビン酸のように、用途名に括弧を付けて物質名まで書く、という形にはなりません。
一括名で書くかどうかは選べる
ここを取り違えると切り替えでつまずきます。一括名は義務ではなく、選択肢です。
物質名で表示している商品なら、剤を替えれば表示も書き換えになります。また、既存の表示が「ベーキングパウダー」となっているものを重曹単独に切り替える場合、一括名として認められている表記であっても、中身と表記が合っているかを見直すことになります。製剤に含まれるでん粉などが原材料表示やアレルゲン表示に響くこともあります。
切り替えの可否と書き方は、規格書を取り寄せたうえで自社の表示責任者にご確認ください。
書かなくてよい添加物もある
同じ資料は、3つ目の例外として表示不要な食品添加物も挙げています。最終的に食品に残っていないもの、残っていても量が少ないために効果が発揮されないもの、そして栄養強化の目的で使用されるものです。それぞれ加工助剤、キャリーオーバー、栄養強化の目的で使用される食品添加物と呼ばれます。
資料に載っている例が分かりやすいので引きます。加工助剤の例として挙げられているのは、使用基準に「最終食品の完成前に除去すること」とある次亜塩素酸水を使い、使用後の水洗いですべて洗い流されて製品に残存していない場合です。キャリーオーバーの例は、保存料が使用されている醤油でせんべいを味付けし、ごく微量の保存料がせんべいに持ち越されるものの、非常に少量のためせんべいに保存料の効果がない場合とされています。
原料を仕入れる側からすると、ここは注意が要ります。自社の表示に出てこない添加物が、原料の側には使われていることがあるためです。表示の義務がないことと、入っていないことは別です。規格書を取り寄せて確認する習慣をつけておくと、あとで慌てずに済みます。
使用量は菓子ごとに決める
膨張剤の配合は、粉に対する比率で組むのが基本です。使用量の目安は、3剤とも規格書でご案内しています。粉に対する比率で組むのが基本ですが、剤を替えたら量から組み直してください。
ただしこれは出発点の数字です。剤を替えたら量から組み直してください。重曹は酸剤を含まない単一の物質なので、ベーキングパウダーと同じ量を入れれば炭酸ナトリウムが多く残り、この記事で挙げてきた苦みと黄変が出やすくなります。
また同じ比率でも、焼くのか蒸すのか揚げるのかで結果が変わります。
焼き菓子は表面から熱が入るため、ガスが出るタイミングと生地が固まるタイミングの噛み合わせが効きます。蒸し菓子は水蒸気で全体が均一に温まるので、焼きよりも穏やかに膨らみます。かりんとうのような揚げ菓子では、高温で一気に反応が進みます。
美濃与では重曹・ベーキングパウダー・イスハタRのいずれについても、どら焼き・蒸しまんじゅうからクッキー・ケーキ、かりんとうまでを用途として挙げています。剤ごとに用途が分かれているわけではありません。どれを選ぶかは膨らみ方と仕上がりの色で決まるので、菓子ごとに試作して決めてください。既存のレシピをそのまま別の菓子に持ち込むと、膨らみすぎたり足りなかったりします。
入れすぎたときに出る症状
膨張剤は多く入れれば大きく膨らむ、というものではありません。ガスが出すぎると生地が支えきれずに落ちます。重曹の場合は炭酸ナトリウムが多く残るので、苦みと色の両方に出ます。
膨らみが足りないときに真っ先に量を増やしたくなりますが、原因が加熱条件や生地の状態にあることもあります。量を動かす前に、焼成温度と生地の休ませ方を確認してください。
イスハタRという選択肢
美濃与では重曹とベーキングパウダーのほかに、Isuhata Rを膨張剤として扱っています。業界で「イスパタ」と呼ばれる系統に当たるかどうかを含め、組成は商品ページに記載がありません。規格書でご確認ください。規格は500gで、重曹の1kg、ベーキングパウダーの2.25kgと比べて小さい単位になります。詳しい規格は個別にご案内しています。
荷姿の選び方でひとつ。年間の使用量が多くない場合は、小さい単位のほうが使い切りやすくなります。開封してから時間の経った膨張剤は、狙った膨らみが出ないことがあります。年間の使用量に対して荷姿が大きすぎないかは、見落としやすい点です。
アルミ不使用の指定が要るか
膨張剤を検討するときに購買側が確認する項目のひとつが、アルミの有無です。先に触れたとおり、ミョウバン系は酸剤の一種として使われます。
ここで前半の表示の話とつながります。一括名で「膨張剤」とだけ書かれている場合、その中にアルミを含む酸剤が入っているかどうかは、表示からは判別できません。一括名は物質名の代わりに区分名を書ける仕組みなので、当然といえば当然です。アルミ不使用を仕様にするなら、表示ではなく規格書で押さえるしかありません。
美濃与の商品ページでも、アルミ不使用のベーキングパウダーもご用意しています、とご案内しています。仕様として指定が要る場合は、その前提でご相談ください。
原料の規格や製造工程をまとめた資料をご用意しています。選定の判断材料としてお使いください。
切り替えるときに確認する項目
| 確認すること | なぜ見るか |
|---|---|
| 仕上がりの色 | 重曹からの切り替えで色が変わる。既存商品なら写真も撮り直しになる |
| 香りと後味 | 重曹特有の風味を前提にした商品では、抜けると印象が変わる |
| 加熱の条件 | 焼く、蒸す、揚げるで働き方が変わる。同じ剤でも菓子ごとに試す |
| 表示への影響 | 一括名で書いているか物質名で書いているかで扱いが変わる。既存の表記も中身と合っているか見直す |
| アルミの有無 | 酸剤にアルミを含むものがある。一括名表示では判別できないので規格書で確認する |
| ガス発生量 | 膨張剤固有の性能項目。ロット間で振れると膨らみが変わる。切替の比較もここで突き合わせる |
| 仕込みから加熱までの時間 | 反応の速い剤と遅い剤がある。生地を寝かせるラインでは効いてくる |
| アレルゲン | 製剤にでん粉などが含まれることがある。原料の由来まで規格書で確認する |
| 荷姿と使用量 | 1kg・2.25kg・500g。使い切れる速さで選ぶ |
| 保管の状態 | 湿気を嫌う。開封後の管理方法を決めておく |
Frequently asked questions
重曹とベーキングパウダーは同じ量で置き換えられますか
できません。ガスの出方も、残るものの性質も違います。置き換えるなら量から組み直して、試作で確かめてください。
どら焼きに使うならどちらですか
皮の色を見慣れた仕上がりに寄せたいなら重曹です。どら焼きの原料と配合で配合の考え方を扱っています。色を抑えたい場合や、生地に別の色を出したい場合はベーキングパウダーが候補になります。
表示は「膨張剤」だけでよいのですか
一括名で書くことも、物質名で書くこともできます。消費者庁の資料では、膨張剤は一括名での表示が認められている添加物として挙げられています。ただし一括名は義務ではありません。個別の商品でどう書くかは、使用している剤の内容と製品全体の表示によります。規格書を確認し、必要であれば表示責任者にご相談ください。
膨張剤に賞味期限はありますか
商品ごとに設定があります。湿気を吸うと働きが落ちるので、開封後は密閉して保管してください。
重曹とベーキングパウダーを並べて比べられますか
ご相談ください。同じ生地に入れても色と膨らみ方が変わるので、並べて焼いてみるのが最も早い判断材料になります。アルミ不使用のベーキングパウダーもご用意しているので、そちらを含めた比較もできます。
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参考:消費者庁「食品表示の内容を正しく理解するための“食品添加物表示に関するマメ知識”」、消費者庁「硫酸アルミニウムカリウムと硫酸アルミニウムアンモニウムの用途の解説」、厚生労働省「食品衛生法に基づく添加物の表示等について」(平成8年5月23日 衛化第56号)。現在の通知は消費者庁「食品表示基準について」(平成27年3月30日 消食表第139号)です
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美濃与は明治35年の創業から、京都で和菓子の原料を扱ってきました。膨張剤は使用量が少ないぶん、荷姿と使い切る速さの見立てがずれやすい原料です。年間の使用量から逆算したご相談も承っています。
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